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ラティーノ!!
米国最大のマイノリティ

3)ラテン・パワー炸裂!  テレビ・映画


■スペイン語チャンネル


 テレビのスペイン語チャンネルを見てみた。スペイン語が分からないと、当然、内容はさっぱりなのだが、それでも画面で炸裂している濃密なラティーノ・ワールドには圧倒されるのみ、だ。


 もっとも目を引くのは、美男美女が骨肉のドロドロ愛憎劇を繰り広げる大河メロドラマ。英語でいうところのソープオペラだが、スペイン語では“テレノベラ”と呼ばれるジャンルだ。1時間番組で月〜金放映、半年は続くという、もの凄いボリューム。それにしても、このテの番組にはやはり万国共通の、下世話さとロマンスの絶妙なコンビネーションが見られる。スペイン語が分かったら結構ハマってしまうかも、だ。


 こういったテレノベラの多くはメキシコやコロンビアなどで製作されており、それが米国でもオンエアされる。したがって、中南米の俳優が米国のラティーノたちの間でも大人気という現象が起こるが、非ラティーノ米国人にはまったく知られていない世界だ。(あのリッキー・マーティンも、一時はメキシコのテレノベラ界の貴公子だったとか) しかし、全世界のスペイン語人口が4億人だということを考えれば、ラティーノ俳優の知名度と人気は、想像以上のものだと言える。


 お次はニュース。スペイン語チャンネルのネットワーク局ユニビジョンのニュースを見ていると、ニューヨークのラティーノ・コミュニティーでの事件から、南米のジャングルでの出来事まで、かなり幅広くカバーしている。報道スタジオのラティーノ・キャスターたちは、それらを淡々と報じるが、地理的、経済的、文化的に遠く隔たった北米の大都市と南米の小村は、彼らの中でどのようにつながっているのだろう。スペイン語チャンネルのニュースをチェックすると、米国のニュースからだけでは分からない、ラティーノの世界観が見えてくるかもしれない。


 スペイン語チャンネルを見ていて、少々気になったことを付け加えよう。テレノベラの女優や、トークショーの女性ホストには白人のラティーナ(*3)が多く、インディオ系や黒人はほとんど見かけない。しかも金髪に染めている女性が多いのは、ラテン世界にも、やはり“金髪碧眼信仰”が存在するためか? 


*3)総称としてはラティーノだが、男女を区別する際には男性はラティーノ、女性はラティーナ





■米国のラティーノ俳優と映画&TV


 次は英語で楽しめる米国のラティーノ映画&TV事情を探ってみよう。


 ここ最近になって、ようやくラティーノ俳優が本格的にブレイクを始めた。その筆頭は、なんといってもジェニファー・ロペスだろう。シンガー、女優、自身のファッション・ブランド“J.Lo”のオーナーとしてマルチに活躍し、昨今は俳優ベン・アフレックとの熱愛振りで、タブロイド紙の女王とすらなっている。


 しかし、ラティーノ俳優はハリウッドで長い間、苦労を重ねてきた。かつては映画のストーリーにラティーノの役柄が、ほとんどなかったのだ。これは黒人俳優も同様だったが、色白のラティーノは“白人になりすまし”て、銀幕のスターになることができた。1940年代にセクシー女優として名を馳せたリタ・ヘイワースがその人だ。


 スペイン系米国人を両親に持つ彼女は、本名マルガリータ・カンシーノを英語名のリタ・ヘイワースに変え、黒髪をブロンドに染めた。さらには生え際の髪を抜き、ラティーノ特有の狭い額の形を変えたと言う。


 1961年には、ニューヨークのプエルトリコ系の若者たちを主人公にした画期的なミュージカル映画『ウエストサイド物語』が公開され、大ヒットとなった。しかしながら、ヒロインのマリア役は白人のナタリー・ウッドが肌をブラウンに塗って演じた。プエルトリコ系の女優リタ・モレノは、マリアの親友役を演じてアカデミー助演女優賞を獲得してスターとなったが、ラティーノたちは今でも「リタ・モレノこそがマリアを演じるべきだった」と主張する。


 こういった時代を経て、徐々にラティーノ俳優が登場し始めた。特に、時代性をリアルに反映させる必要があるテレビの刑事ドラマ『NYPDブルー』などでは、刑事役と犯人役の両方でラティーノ俳優が活躍することが多くなった。もっとも、こういった配役をステレオタイプだと非難する声もある。


 ラティーノ俳優の強みは、顔立ちによっては役柄が広がることだろう。J.Loは『セリーナ』で実在のメキシコ系シンガーを演じたかと思えば、『ウエデング・プランナー』ではイタリア系、『メイド・イン・マンハッタン』では、自身と同じプエルトリコ系を演じている。キューバ系のアンディ・ガルシアも『ゴッド・ファーザー3』ではイタリアン・マフィアの若きドンとなったし、NBC局の高視聴率ドラマ『ザ・ウェスト・ウィング(邦題:ホワイトハウス)』でアイルランド系の米国大統領を演じているのは、スペイン系のマーティン・シーン(本名ラモン・エステベス)だ。


 その一方、ラティーノとしてのアイデンティティー全開で頑張っている俳優もいる。昨年からFOX局ではメキシコ系コメディアンのジョージ・ロペスが、ロスに暮らすメキシコ系一家を主人公にしたシットコム『ジョージ・ロペス・ショー』を開始している。


 また、アニメ界にもラティーノのキャラクターが登場している。ニッケルオデオン局の幼児向けアニメ『ドラ・ザ・エクスプローラー』の主人公ドラはラティーノの女の子だが、この番組は人種を問わず、すべての子どもたちの間で超人気だ。


 最近は、ラティーノの若手監督による、ラティーノ・コミュニティーを舞台にしたインディーズ映画も増えている。ラティーノ映画祭も開催され、優秀な作品も多いが、ラティーノ以外の観客の興味を引きにくいという難点がある。その点、メキシコ系のロバート・ロドリゲス監督は、ラティーノのコルテス一家を主人公にしながらも、万人に受け入れられる冒険アクション映画『スパイ・キッズ』シリーズで大成功を収めている。


 ラティーノとしてのプライドとアイデンティティーを打ち出すか、メインストリームに溶け込んでいくかは、それぞれの役者や監督の選択だが、いずれにせよ、私たちはスクリーンやテレビ画面で、日々、かなりの数のラティーノ俳優と対面している。

おまけ ー ラティーノ・ショービズ事情



U.S. FrontLine No.190(2003/07/20号)掲載記事
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