NYBCT


ヒップホップの真実
貧困と犯罪、そして未来


<犯罪>


ダチみたいな格好をしたオトリ捜査官
(オレは)金を稼ぎまくってた
いい車に乗ってスイスイ走ってた
札束を脇に押しやって
(ドラッグの)最後の一袋を売ってる時に捕まり、ムショに入れられた

誰も面会には来ない
オレのこと、忘れちゃったんだろう
刑務所内の売店は品切れ
同房の囚人たちはオレ抜きで食べ物を食ってる*
出所して人生を再開するのが待ち切れない
オレを愛してくれて、オレにまっとうなことをさせたがっている家族に会いたい
だけどオレは此処、ムショの中
あいつら(司法制度)はオレを行かせてはくれない。オレはムショの中
オレはムショの中、ムショの中、ムショの中

*面会人が囚人の刑務所内口座に現金を振り込むと、囚人は刑務所内の売店で身の回り品や軽食を買える


エイコンAkon
Locked Up(ムショ入り)より抜粋
アルバム「Trouble」収録 (2004)




エイコンAkon
生年不祥。西アフリカのセネガルで育ち、7歳でニューヨークに隣接するニュージャージー州に移住。高校生の時に問題を起こし始め、刑務所に入る。その経験を歌った「ロックト・アップ」が2004年夏に大ヒット





■犯罪


 ニューヨークのライカーズ刑務所に収監されている者のうち、9割近くを黒人とヒスパニックが占めている。彼らの多くはドラッグの所持または売買による罪で収監されている。では、なぜドラッグなのか。
 貧しい生活は人を落ち込ませる。テレビを付ければ、そこには豊かな生活のすべてが映し出されている。ところが自分は家賃や電気代の支払いに追われ、最低限の食料品と衣服を買えば、手元には何も残らない。自分の家族や親戚、友人や近所の住人も同じ状況にあり、ゲットーのどこにも明るい話題は見当たらない。こんな暮らしが延々と続けば、誰でも何かに逃避を求めたくなる。
 だからゲットーの住人はドラッグを使う。ある一定の地域に大量のドラッグ常用者がいれば、そこにはドラッグ売買のビジネスが成立する。ドラッグ密売は、まともな仕事に就きにくいゲットーの男性が簡単に大金を手にできる「職業」なのだ。



■ドラッグと殺人


 高所得の白人がインターネットで高品質・高価格のドラッグを売買しているご時世に、黒人はストリートで安物のドラッグを売り続ける。顧客がコンピュータなど持っていないからだ。強い日差しが照り付ける真夏も、手がかじかむほど寒い冬の日も、密売人たちはひたすら街角に立ち続ける。
 商品が合法であれ、ドラッグのような非合法であれ、ビジネスの場には必ずトラブルが発生する。ドラッグ密売組織間でもめ事が起きた場合、その最終的な解決策は「殺人」だ。銃は、銃の密売組織から簡単に手に入れることができる。



ストリートで誰かが亡くなると
段ボールの祭壇が作られる

ハーレムのメインストリートに
貼られた巨大広告


■刑務所カルチャー


 ゲットーで起る事件は、加害者も犠牲者も共に黒人であることが多い。これを「ブラック・オン・ブラック」と呼ぶ。
 犯罪を犯すことを誇示するラップは以前よりあるが、ここ最近、刑務所内の様子を描いた曲やビデオ(女性アーティストの場合は、獄中の恋人に面会に行くというストーリー)が増えている。中には獄中レコーディングのアルバムをヒットさせているラッパー(*)さえ存在する。


*1999年、ニューヨークのクラブで発砲事件が起こり、P・ディディーとラッパーのシャインが逮捕された。P・ディディーは無罪となったが、シャインは懲役10年の刑を受け、今年、獄中からアルバム「Godfather Buried Alive」をリリースし、ヒットさせた



.

白人

黒人

ヒスパニック

アジア系
NY市総人口における比率(2000)

35%

25%

27%

10%
ライカーズ収監者における比率
(2003)

9%

58%

30%

-
NY市の殺人事件犠牲者629人に
おける比率(2000)*

13%

56%

26%

4%



ヒップホップの真実〜トップページ


U.S. FrontLine No.241(2004年12月第3週号)掲載記事



(c)1999-2005 堂本かおる/NYBCT all rights reserved
無断転載・転用を固く禁じます

ホーム