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ヒップホップの真実
貧困と犯罪、そして未来


<貧困>


若かった頃、おれとママの仲は険悪だった
17歳でストリートに放り出されたんだ
ママの顔を見ることは2度とないと思った、結局は家に舞い戻ったけど
生きたままでママの存在に変る女性なんていないね
停学を喰らい、家に帰るのが怖くて、おれは愚か者だった
年上の奴らとすべてのルールを破ったりしてさ
妹と一緒に泣いたものだ
何年もの間、おれたちは他所の子たちより貧しかった
たとえ父親が違っていても、同じことをした
何かあるたびにママを責めたんだ
ストレス漬けで、罵って、地獄だった
刑務所の房からママを抱きしめた

いつもブラッククイーンだったよ、ママ
やっと分かったよ
女性が男を育てようとするのは容易じゃないって
ママはいつも真剣だった
生活保護を受けてる貧しいシングルマザー
一体どうやっていたのか、教えてくれるかい




2Pac2パック
Dear Mama(親愛なるママ)より抜粋
アルバム「Me Against the World」(1995)収録



2パック 2 Pac
1971年、ニューヨーク市生まれ。両親は共に黒人過激派団体ブラックパンサーのメンバーだったが、2パックの誕生前に別れる。母親は二人の子どもを連れて全米を転々とし、2パックが17歳の時にロスに落ち着く。その後、2パックは西海岸を代表するラッパーとして大きな人気を得るが、1996年、25歳で何者かに銃で撃たれて死亡。ラッパーの東西抗争が原因だと言われている。今では「伝説のラッパー」として神格化された人気を持つ



■貧困


 統計ではニューヨークの黒人世帯の4分の1が貧困家庭となっている。しかし政府の定める法定貧困レベル(4人家族で年収18,850ドル以下)を少々超える収入があったとしても、物価の高い都市部で4人が暮らすのはかなり厳しい。実際には統計値をはるかに上回る数の黒人世帯が貧困家庭であるといっていいだろう。
 貧困家庭が多い理由は、働き盛りの年齢の男性の不在(刑務所に収監)、失業率の高さ、女性が世帯主の家庭(シングルマザー家庭、祖母が孫を育てている家庭)の多さだ。



 ニューヨークに於ける21歳〜34歳の黒人男女の比率は、男性19人に対して女性25人。あまりにも多くの黒人男性が刑務所の中にいるため、女性はひとりで子育てをしなくてはならない。ところが女性にも低学歴の者が多く、仕事を見つけることは難しい。託児所の費用を払えないために仕事に就くことをあきらめ、生活保護に頼って暮らしている場合も多い。





■福祉依存


 低所得地域の食料品店に行くと、クーポン券のようなもので支払いをしている客をよく見かける。行政が貧窮者に配付する、食料品にのみ使えるフードスタンプだ。おつかいに来て、白いクレジットカードのようなもので支払いっている子どももいる。妊娠中の女性、新生児と5歳までの子どもが対象の福祉政策で、やはり食料品が買えるW.I.C.(Women, Infants and Children)のカードだ。
 ニューヨークの黒人男性の失業率は50%近い。学歴の低さと、前科を持つ者の多さが理由だ。刑期を務めて出所しても、犯罪歴のある者が就ける仕事は少なく、しかも低賃金。加えて黒人への就職差別も目には見えない形でいまだに存在する。


「フードスタンプ、WIC使えます」
のポスターが貼られたハーレムの
食料品店


■教育の欠如と貧困のサイクル


 ニューヨークの公立学校のレベルは、地域によって驚くほどの格差がある。8年生の英語の成績を例に取ると、マンハッタンの高所得地域アッパーイーストサイドを含む学区では基準点に達している生徒が59%、対してハーレムでは21%だ。
 これはリッチな地域の学校ほど優れた教師と多くの予算を得ることができるためと、低所得地域では親も低学歴であることが多く、子どもの勉強を後押ししてやることが難しいため。つまり宿題を手伝ってやることができなかったり、大卒の親ほどには、子どもの進学を強く望まなかったりということだ。
 アメリカでは高校入学までは義務だが、小学校低学年の基礎教育でつまずいた子どもたちは、義務教育期間の終わる16歳になると次々と中退していく。仕事はなく、あっても低賃金のサービス業止まりだ。こうして貧困の連鎖は終わることなく続いていく。



.

白人

黒人

ヒスパニック

アジア系
貧困家庭の割合

12%

26%

30%

-
女性世帯主家庭で育てられている
子どもの割合

12%

55%

43%

7%
高校卒業率

58%

32%

30%

61%
男性の失業率

24%

48%

34%

-

*データはすべて近年のニューヨーク市のもの




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U.S. FrontLine No.241(2004年12月第3週号)掲載記事



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