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ヒップホップの真実
貧困と犯罪、そして未来


インタビュー:D. Moe part 2
<ギャングスタラップ>


Q:コミュニティーの子どもたちについて教えてください


 多くの子どもは父親なしで育つ。おれがハスリングをしていた頃、シングルマザー家庭の子どもたちは、おれよりもはるかにやりたい放題だった。母親だけだと、どうしても子どもに目が届かなくなりがちだからね。
 男たちは犯罪を犯して25年も50年もムショに入れられる。おれの友だちの多くも子どもを残してムショの中だ。父親なしで育つ子どもの中には(必要以上に)早く大人になったり、大人並の犯罪を犯したり、冷淡になったりする者がいる。家庭の中に手本にすべき男性像がないからだ。ストリートは子どもに独自の「人生の定義」を与えてしまう。


Q:子どもの頃、どんなヒップホップを聴いていましたか?


 10代の頃はヒップホップではなく、R&Bを聴いていた。オールドスクール(*)はおれたちの世代の心情を表してはいなかったからだ。しかし80年代の後半に登場したEPMD(*)には夢中になったよ。


*オールドスクール:70年代後半から80年代前半に登場した、ヒップホップ第一世代のアーティストたち

*EPMD
エリック・サーモン、パリッシュ・スミス(共に1968年生まれ、ニューヨーク州ロングアイランド出身)によるグループ。西海岸発祥のギャングスタ・ラップが定着する以前に「ハードコア・ラップ」で人気を得た



Q:ヒップホップとは何ですか?


 ヒップホップは「苦しみ struggle」 から生まれた。おれも周囲の人間が殺されていくのを何度も見てきた。この現実を世間に知らせ、語り合い、変えていかなくてはならない。「ファック・アメリカ!」(アメリカのくそ野郎!)とか、自分がこの現実に対してどう感じているか、それを表現するのがヒップホップだ。
 おれ自身にとってのヒップホップとはライフスタイル、カルチャー、アートの様式だ。とても美しい反面、たくさんのネガティブな要素に対しての責任もある。


■ギャングスタラッパー


Q:では、その「ネガティブな要素」であるギャングスタラッパーのリリックについて、どう考えていますか?


 多くのギャングスタラッパーはニセ物だ。人気を得るために、実際には体験していない殺人をラップしたりしている。しかし、それもアリだ。人間は食べていかなくてはならないからね。ヒップホップ・ビジネスは雇用を作り出し(*)、コミュニティーの経済を潤している。ヒップホップなしではコミュニティーはもっとひどいことになっていただろう。
 2パック、ビギー(ノトーリアスB.I.G.)(*)、ジェイ・Zなどは自分自身のことを高いレベルでラップし、小さなムーブメントだったヒップホップを大きなビジネスに育てたんだ。


*ノトーリアスB.I.G. The Notorious B.I.G.
1972年、ニューヨーク市ブルックリン区生まれ。高校中退後にドラッグ密売人となり、逮捕されて9ヶ月を獄中で過ごす。出所後にリアルな暴力描写のラップで大きな人気を得る。ヒップホップ東西抗争のさなか、2パック暗殺の6ヶ月後に、その報復として暗殺された。ビギーは愛称



*ヒップホップ業界では家族や友人をレコード会社のスタッフ、用心棒、バックミュージシャンなどとして雇うことが多い


Q:ニセ者であれ、本物であれ、彼らが作る暴力やセックス描写満載のビデオは連日テレビで流され、小さな子どもも見ています。ヒップホップは子どもが犯罪に走る原因になっていると思いますか?


 毎日「ニガ!殺せ!ニガ!」みたいなリリックの曲を聴かせていると、ものの見方が変わってしまう子どもも確かにいる。しかし、朝、起きて食べるものが無かったとしても、ヒップホップが「ストリートに出て強盗をしろ」と言うわけではない。空っぽの胃袋が、そうさせるんだ。ヒップホップが生まれる前から、コミュニティーの犯罪発生率は高かった。
 それに、そういったビデオもR指定の映画と同じで、理解できる年齢になれば見てもいいし、すべてのラップがネガティブなわけではない。つまり、子どもに何を見せるかは親の責任だ。


Q:あなたもヒップホップ世代ですが、今の子どもたち、つまり新しいヒップホップ世代との違いは何ですか?


 今の子どもたちはコンピュータに精通しているし、大学進学率も上がっている。おれたちの世代と違い、2〜3歳年上のギャングに憧れて道を踏み外したりはしない。60〜70年代にはモータウンがあったが、黒人はそれほど潤うことはできなかった。しかし今、ヒップホップ・ビジネスは確実に富をもたらしている。黒人は雇われる側から「経営者」になろうとしている。新世代は声を上げ、明るくポジティブな未来を築こうとしているんだ。



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U.S. FrontLine No.241(2004年12月第3週号)掲載記事



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