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ラティーノ!!
米国最大のマイノリティ

西暦2003年・夏、世界をホットなパワーで席巻するラティーノに迫る!
エネルギッシュなラテン・ミュージック、スパイシーなトロピカル・フード、コロンブスの航海から始まる遠大な歴史、そして各界で活躍するラティーノ・セレブまで!


リッキー・マーティン(歌手)
ジョージ・ロペス(俳優)
サミー・ソーサ(野球選手)

一見、まるでタイプの異なる、濃い目の男前(?)なセレブリティ3人。
彼らの共通項とは? そして、それぞれのユニークなアイデンティティーとは?




■ラティーノって誰だ?!



 「ラティーノって、スペイン語をしゃべる陽気な人たちでしょ?」


 アメリカ合衆国(以下、米国)に住む私たちの、ラティーノに対する認識といえば、たいていはこの程度。ラティーノの有名人を挙げろと言われて真っ先に思い浮かぶのは、J.Loことジェニファー・ロペスか。今やセクシー・スターの名を欲しいままにしているJ.Loは、ニューヨークはサウスブロンクス出身のチャキチャキのプエルトリコ系だ。


 他には、ニューアルバムをひっさげて華麗なるカムバックを果たしたばかりのスーパー・アイドル、リッキー・マーティン(プエルトリコ系)、テレビの人気シットコムでお馴染みのコメディ俳優ジョージ・ロペス(メキシコ系)、コルク・バット事件も記憶に新しいカブスの野球選手サミー・ソーサ(ドミニカ共和国出身)などなど。


 しかし、このラティーノ男性3人、よく見れば顔立ちも違うし、肌の色も違う。そもそも出自からして違う。実のところ、ラティーノって、一体どんな人たちなんだろう?




●ラティーノの定義 その1:

ラティーノとは、ラテン・アメリカ(カリブ海を含む中南米諸国)の、スペイン語もしくはポルトガル語を公用語とする国の出身者と、その子孫を指す
注:ポルトガル語使用国はブラジルのみ。今回の特集では主にスペイン語圏出身者に焦点を当てる

 ラティーノは米国に於いてもスペイン語を使う率が非常に高い。移民一世にはスペイン語しか話さないか、英語は片言程度という人も多い。また、英語とのバイリンガルであっても、ラティーノ・コミュニティーの中ではスペイン語、もしくはスペイン語と英語をミックスさせた“スパングリッシュ”を話す。だから公共機関のポスターなどにもスペイン語併記のものがどんどん増えているし、スペイン語放送やスペイン語新聞もかなりの数がすでに存在する。


●ラティーノの定義 その2:

ラティーノとは人種(race)ではなく、民族・文化(ethnic/culture)のグループである


 人種とは肌の色、髪の質など肉体的な特徴に基づいた分類で、つまり白人、黒人、黄色人種……といったグループ分け。ところがラティーノの中には、黒人もいれば、白人もいるし、混血も多い。これではかえって何のことだか分からない? ではラティーノの歴史を簡単にひもといてみよう。そうすれば、「なるほど、そういうことか!」と、すっきりすること請け合いだ。




■ラティーノの歴史


 そもそもの始まりは、イタリア人探検家コロンブスの、いわゆる“新大陸発見”(*
1)に遡る。コロンブスは1492年にカリブ海に浮かぶエスパニョーラ島(現ドミニカ共和国とハイチ)に到着し、そこをアジアと勘違い。だから今でも先住民はインディオ(インド人)、カリブ海の島々は“西インド諸島”と呼ばれている。あぁ、大いなる歴史のミステイク!




*1)コロンブスがこの地域に到達する以前からインディオが存在していたこと、そのインディオをスペイン人が討伐したことから、ラティーノの中には“新大陸発見”という言葉を嫌い、コロンバス・デイを祝わない人も多い



 それはさておき、コロンブスが仕えていた当時のスペインはヨーロッパ最強国だったため、カリブ海と中南米の多くの国々がスペインの植民地となった。スペイン人はカリブ海諸島では先住民インディオを全滅させ、アフリカ人奴隷を導入して農園を作った。しかし中南米ではインディオ討伐に失敗している。


 こういった歴史の中で、スペイン人、アフリカ人、インディオの血が徐々に混じっていった。これがラティーノである。つまり多くのラティーノは、人種的には白人・黒人・インディオのいずれか、または全ての混血ということになる。ただし、植民地時代から純血を守り抜いている白人グループもあれば、黒人の血筋、インディオの血筋が色濃く残っている国・地方もある。だからラティーノの外見は、まさに100人100色なのだ。


 言語はスペイン語が定着し(ブラジルのみポルトガル語)、宗教もスペインの影響でキリスト教カソリック信者が圧倒的に多い。音楽や食などの文化は、それぞれの国や地域従来のものに、スペインとアフリカの要素が加わり、各国でユニークなものが生まれた。料理はそれぞれに美味しく、音楽はリズミカルでバラエティ豊か。植民地政策の生んだ、数少ないポジティブな副産物だ。




■ラティーノとヒスパニック


 ラティーノとほぼ同義語に“ヒスパニック”という言葉がある。統計調査や新聞記事など、カタい場面では“ヒスパニック”が使われる一方、音楽やファッションなどのポップな話題では、最近は“ラティーノ”が使われる傾向にあるが、その違いとは?


 厳密にはラティーノが「中南米諸国のスペイン語圏から他国に移住した人と、その子孫」すべてを含むのに対し、“ヒスパニック”とは、「米国に住むスペイン語話者」を指す。しかし、この二語は、当のラティーノたちの間でもかなり曖昧な使われ方をしているし、中には独自の定義付けをしている人たちもいる。


例えば、あるプエルトリコ系女性は「私はヒスパニックであって、ラティーノではない。ただし、他の中南米諸国の人たちと共にラティーノ・グループの一員だとは言えるわね」と言った。


 そうかと思えば、とあるメキシコ系レコード店の壁には「ラティーノやヒスパニックとは中南米の白人のことである。我々はあくまでメキシカンだ!」と、自分たちのインディオとしての独自性を誇る、やや過激とも取れるメッセージ。 


 なんともややこしい話ではあるが、ラティーノは植民地化という歴史、人種の混合、加えてそれぞれの国の文化の違いという複雑な背景を持つだけに、スペイン語という枠で括られたひとつのグループではあっても、個々人のアイデンティティは様々なのだ。


 国勢調査局もラティーノの定義には頭を悩ませてきた。実は“ヒスパニック=米国に住むスペイン語話者”という言葉を編み出したのは国勢調査局だ。しかし、ヒスパニック/ラティーノが人種ではない以上、「以下の人種区分から該当するものを選べ:白人・黒人・アジア系・ヒスパニック/ラティーノ」とは聞けない。そこで現在は人種に関しては、「白人か黒人か、あるいは、その他か」を選んでもらい、それとは別に「ヒスパニック/ラティーノか否か」という項目を作っている。しかも「ヒスパニック、ラティーノという言葉には互換性がある」という注釈付きだ。 


 そんな苦労の末、国勢調査局は今年1月に「ヒスパニック/ラティーノ人口が黒人を抜いて米国最大のマイノリティ・グループとなった」と発表した。いよいよラティーノの時代の到来である。




米国国勢調査の“ヒスパニック/ラティーノ”に該当する者の出身国

カリブ海
キューバ、プエルトリコ(*2)、ドミニカ共和国

中 米
メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマ ※ベリーズ(英語が公用語)は含まれない

南 米
ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチン、チリ、ウルグアイ、ブラジル(ポルトガル語)
※ガイアナ(英語)、スリナム(オランダ語)、仏領ギアナ(フランス語)は含まれない
*2)プエルトリコは“米国準州”。米国50州には含まれないが、島民は米国パスポートを持ち、米国本土へ自由に往来できる。島民は自治権を持ち、米国連邦税は払わない。米国本土在住者のみ米国大統領選に投票できる




U.S. FrontLine No.190(2003/07/20号)掲載記事
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