ハーレム


街角を鮮やかに彩るブラック・アート

ハーレムにはアートも溢れている。美術館やギャラリーもあるし、ちょっと街を歩けば、工事現場を囲った板塀に描かれた絵や詩、いまもあちこちに残るグラフィティを見つけることができる。


・差別に抗議してグラフィティを製作・

 黒人のアートにはカラフルでエネルギッシュなものが多い。けれど、時にはその鮮やかな色彩の背後に、今も無くなることのない“差別”という重荷を背負った黒人の悲しみが秘められていることもある。


 1999年、ニューヨークのブロンクスで、アフリカからの移民であるアマドゥ・ディアロ氏(当時22歳)が、彼を不審尋問しようとした白人警官4人に射殺された。ディアロ氏は犯罪人などではなく、まったく無実の一般人で、警官に声をかけられたとき、とっさに身分証明書を出そうとしてサイフに手を延ばしたと言われている。警官たちは、そのサイフを銃だと勘違いし、実に41発もの銃弾をディアロ氏に浴びせたのだ。裁判では、この事件は犯罪捜査中に起きた“事故”と定義付けられ、 白人警官たちはいずれも無罪となった。


 ハーレム在住のグラフィティ・アーティスト、ブレット・クック・ディズニーは、新聞に掲載された裁判中の4人の警官の写真をグラフィティ・アートに仕立て、ハーレムの今は使われていない教会の壁に掲げた。以後、ハーレムの人々は、この教会の前を通るたびに、同胞に起きた悲劇に思いを馳せ続けている。

・ハーレムのポジティブな側面を描く・

 ディアロ氏射殺の事件では大きなショックを受け、だからこそ警官たちの絵を描いたであろうブレット・クック・ディズニーだが、しかし彼の普段のテーマは、実は“ハーレムの普通の人々”だ。彼の絵は前述の教会だけではなく、ハーレム中のあちこちの建物の壁に掲げられている。その全ては、2メートル四方はあろうかという人物の肖像画で、「音楽が好き」「人種なんて関係ないんだ」など、モデルとなった人物の素朴なセリフがメッセージとして書き込まれている。これは彼が、ハーレムのポジティブな側面を世界に知らせようとしているのだ。


 さらに彼の絵は、とてもスプレー缶で描いたとは思えない精巧さとユニークなスタイルを持っており、ヒップホップ・カルチャーから生まれたグラフィティを、次の段階に昇華させたと言える。その証拠に、グラフィティ・アーティストとしては稀なことに、今年3月にはニューヨークのギャラリー街SOHOで個展も開いている。今後、ブラック・アートがアメリカのアート・シーンに於て重要なポジションを占めることは間違いない。

U.S. Front Line 2001/09/05号掲載記事
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