ハーレム


ハーレム・ピープル

その笑顔、ジョーク、温かさ。アメリカ広しと言えど、こんなにも魅力的な人々が住む街は、ここハーレムだけ。プラス、そんなハーレムに溶け込んで暮らす日本人もいる。



全身入れ墨、だけど憎めないハーレムのタトゥ・アーティスト
マット・アレキサンダー


 ハーレムの刺青彫り師と聞けば、どんなにコワい男が出てくるのか、と思わず身構えてしまうけれど、マットに関しては、まったく心配ご無用。身体は大きくてもキュートなベイビーフェイスの持ち主で、本業は驚くなかれ、幼稚園のアートの先生だと言う。そのマットが、いかにも子供に好かれそうな屈託のない笑顔で、タトゥに関してあれこれ説明してくれた。


 「5年前に彫り師の友人に教わったのが始まり。そもそも絵を描いていたから、あとは彫りの技術を覚えるだけだった。でもタトゥ・ガン(刺青を彫る機械)は重くて、これを使いこなせるようになるまで8ヶ月もかかっったよ」。


 「今、タトゥは欠かせないファッション・アイテムで、ボクのお客さんも99%は若い女性。実は勤め先の幼稚園の子供のお母さんたちもお得意様。だから女性向けの可愛いデザインをたくさん揃えているよ」。


 「ポリシーは、お客さんにハッピーになってもらうこと。そのために今は自宅で予約制でやってる。ほら、こんなふうに普通の家のリビングルームだとリラックスできるだろう」。


 「ただし、客のボーイフレンドは同伴禁止。だって自分の彼女が、彫り師とは言え、他の男の前で胸や太ももをあらわにしているのを見たら…判るだろう?」


 そんなマットも、いったんタトゥ・ガンを握れば、真剣なプロフェッショナルの顔になった。この日のお客は大学生のサマンサ。肩にはすでに小さなバタフライのタトゥが入っていて、今日は太ももに可愛いイチゴを彫るという。


 あらかじめ用意してある図柄をカーボンで肌に写し、黒のインクで輪郭を取ることから始める。その後にイチゴの赤、葉のグリーンなど色を入れていく。中央のイチゴを彫っているあいだは、あまり痛くないと言っていたサマンサだけど、太ももの内側まで伸びているツルの部分にタトゥ・ガンが入った時には、さすがにちょっと苦しそうな表情。(おしゃれってツラい!)でも出血はほとんどなく、1時間半ですべてが終了。


 ひと仕事終えたマットは、また笑顔に戻って話し始めた。
 「来年2月には、初めてのベイビーが生まれるんだ。そうなったら自宅ではもうできないから、店を構えなくちゃ」。


 「子供が大きくなった時に、ダディはどうして、そんなに全身タトゥだらけなの?なんて訊かれちゃうんだろうなあ」。


 最愛の奥さまジャッキーを横に、そう言って苦笑するマットは、やはり彫り師には見えないキュート・ガイだった。


Matt Alexander
Tel: (646)210-7035
mrfantasik@aol.com

U.S. Front Line 2001/09/05号掲載記事
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