ハーレム


ハーレム・ピープル

その笑顔、ジョーク、温かさ。アメリカ広しと言えど、こんなにも魅力的な人々が住む街は、ここハーレムだけ。プラス、そんなハーレムに溶け込んで暮らす日本人もいる。



地下鉄のライブ王は、ミシシッピ・ブルースを歌う
テッド・ウィリアムス


 グランド・セントラル駅など、ニューヨークの主要駅に行けば、そこにはいつもバンドを引き連れてブルースを歌うテッド・ウィリアムズの姿がある。アメリカ南部で生まれ、放浪の末にニューヨークのハーレムに流れついたテッドは、本場仕込みのブルースと陽気なキャラクターで、今日も仕事帰りのニューヨーカーたちを沸かせている。


 「生まれたのはミシシッピ。子供の頃、夏はシェアクロッパー(南部で奴隷解放後、黒人が成らざるを得なかった貧しい小作人)として働き、冬は学校に通った。成績は良かったのに素行不良と言われて11歳でシカゴに追い出されたんだ。それからブルースを歌い始めた。その後、あちこちを転々としたけど、最後はニューヨークに落ち着いた。ここは最高の街だ。」


 もの凄い人生を、いとも簡単に語り始めるテッド。


 「ニューヨークにたどり着いてからは27年間、高級アパートメント・ビルのセキュリティを勤めた。有名なニュース・キャスターなんかがたくさん住んでて、みんな良くしてくれたなあ。クリスマス・チップなんて2、3千ドルにもなったんだ。もっとも金持ちほど、実はケチだったけどな。ハハハ。」


 「その頃は夜歌ってたんだ。でも5年前にセキュリティを引退して、それからは、ずっと地下鉄で歌っている。」


 どうしてクラブじゃなく、地下鉄で歌うの?
 「地下鉄はいい。いろんな人が立ち止まって聴いてくれて、チップを投げ入れては去っていく。すると、また別の誰かがやって来る。そうやって沢山の人をハッピーに出来て、気の向いた時間に帰れる。クラブじゃ、そうはいかないだろ?」


 テッドは地下鉄で演奏するたびに、トランクいっぱいのチップを稼ぐ。時には100人近い観客が集まり、手拍子や掛け声をかけるファンも多い。テッドの巧みな話術に大きな笑いが起ることもしょっちゅうだ。


 ところでバンドのメンバーは日本人と白人。彼らにも“黒人の魂”であるブルースが演奏できるの?
 「日本人の赤ちゃんだって、目が覚めたときにミルクがなかったら泣くだろう?それがブルースなんだよ。(注)人種なんて関係ないんだよ。」


 「でも、ニューヨークで見かける日本人のほとんどは大人しいよな。彼らに言いたいことは、リラックスして、人生を、自分自身をエンジョイしろってことだ。もっとも、そのためには英語も少しは勉強しなくちゃな。」
 人生の達人テッドからの、ささやかなアドバイスだ。

 ところで、懐かしい生まれ故郷に帰る予定は?
 「いいかい、僕はミシシッピからニューヨークまで遥々来たんだよ。歳を取って演奏できなくなるまで、ここでずっとブルースを演り続けるさ。」


注:ブルースとは、苦しい生活を強いられていた黒人が悲しみ(ブルーな気持ち)を歌ったもの。それは時に欲しいものが何も手に入らない悲しみでもあった。


テッドの演奏スケジュールは下記サイトで。
http://home.earthlink.net/~bluested/

U.S. Front Line 2001/09/05号掲載記事
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