ハーレム


ハーレムで聞く黒人音楽の魅力

ハーレムは音楽で満ちている。ゴスペル、ジャズ、ソウル、ヒップホップ…。いつ、どのストリートを歩いても、そこには必ず音楽がある。さまざまな黒人音楽を生み、育んできたハーレムの人々にとって、音楽は人生に欠かせない魂−soul−なのだ。



【ジャズ】

 ハーレム華やかなりし1930〜40年代、人々は夜毎、140丁目のサヴォイ・ボールルームに詰めかけ、デューク・エリントンのビッグ・バンド・ジャズで踊り明かした。

 ビバップ隆盛の1950〜60年代、クールなジャズメンの熱いジャム・セッションを聴くために、人々はスモールズ・パラダイス、ミントンズ・プレイハウスなど、今はもう存在しないジャズ・クラブへと出掛けた。いずれも当時は最高にヒップな音楽だったのだ。けれど時は移って2001年、残念ながらジャズはかつての勢いを失ってしまった。

 それでもハーレムにはジャズを愛する人たちが、まだまだ大勢いる。レノックス・ラウンジなどのジャズ・クラブでは毎夜、セッションが行われているし、ヒップホップの人気に押されてその数は減っているとは言え、明日のマイルス・デイビスを目指す若いミュージシャンもいる。

 小さな薄暗いバーのカウンター席、バーテンダーとの小粋なやり取り、たなびく煙草の煙、粋なスーツでキメたミュージシャン…。ハーレムからジャズの香りがなくなることは、永久にないだろう。


【ゴスペル】

 ゴスペルは、黒人が神を讚える音楽だ。人間としての尊厳をすべて奪われ、過酷な労働を強いられた奴隷制時代はもちろん、厳しい差別と貧困にあえぎ続けたその後の時代にも、人々には救いが必要だった。それが音楽と信仰であり、心の安らぎを得られる唯一の場所が教会だったのだ。

 「私の声が聞こえるか!」壇上のステンドグラスを背にした牧師の問い掛けに、聴衆が一斉に応える。「イエース!」

 牧師が再び声高らかに告げる。「神よ、私たちは決して、あなたを忘れない! 決して! 決して!」

 人々は教会で神に感謝の念を表すと共に、日々の生活の重圧をすべて解放する。そのエネルギーがゴスペルとなって教会の壁にこだまする。ドラムやタンバリンの、まるで高まる心臓の鼓動のような速いリズム、40人からなる合唱隊の重厚な、しかし情熱的な歌声、神の啓示を受け、両手を空中高く差し上げてステージや信徒席で憑かれたように踊る人々。初めて体験する者には驚くばかりの光景だ。

 ところで、教会が観光客を受け入れる理由は、実は寄付金。教会とて収入なくしては成り立たず、つまりはビジネスが必要なのだ。それでも信者にとって教会は神聖な場。しかもゴスペルは礼拝の一部であり、観光用エンターテイメントではない。Tシャツ姿で訪れたり、牧師の説教中にボトル・ウォーターをラッパ飲みといった行為は、くれぐれも控えたい。


【アポロ・シアター/アマチュア・ナイト】

 ハーレムのメイン・ストリート125丁目のシンボルであるアポロ劇場。ここはジェームス・ブラウン、ダイアナ・ロスなど数々の黒人スーパースターを生んだ伝説のシアターだ。


 このアポロ劇場で今も毎週行われている超人気イベントがアマチュア・ナイト。これはアマチュア・アーティストたちが、明日のスターを夢見て実力を競い合うコンテストだけれど、徹底したエンターテイメント・ショーに仕立ててあって、楽しさ満点!ハーレムに来たら、これは絶対に見るべき。


 まずはウォーミング・アップのコメディアンが、キツいジョークで客席を思いっきり沸かせ、つぎに客席からの飛び込み参加によるソウル・トレイン・ダンス。やがてコンテスト本番になると、R&Bシンガー、ラッパー、コメディアン、詩の朗読、子供ダンス・チームなど、なんでもありのバラエティ。実力不足の出場者は、観客からブーイングの嵐を受けてステージから追い払われる。これもアマチュア・ナイト恒例のお楽しみシーンのひとつなのだ。また、まわりに座っている観客のコメントにも笑わせられる。「おー、おー、ひどいわね、あのスーツ!」「あの娘はちょっと歌えそうなカンジよね」など、みんな勝手な評論家気取り。


 コンテストの合間には、司会者が客席を笑わせ続けるし、有名な黒人シンガーを讚えるコーナー、入場チケットの番号抽選で景品がもらえるコーナーなど、メニューは盛りだくさん。最後はすべての出場者がステージに勢揃いし、再び客の拍手で優勝者が決まる。晴れて上位入賞を果たした者は、以後2回のコンテストを勝ち抜けば、年に1度のスーパー・トップ・ドッグ大会に進むことができる。ここで優勝すれば、プロ・デビューも夢ではないのだ。



Apolllo Theatre
253 W. 125th St.(bet. 7th & 8th Ave.)
地下鉄A/C/B/D, 2/3の125th St.下車
(212)749-5838

Amateur Night
毎週水曜日7:30pm〜10:30pm(予定)
$15〜
チケット購入は当日に劇場窓口か、
http://www.ticketmaster.com

※終了時刻、料金はレギュラー大会と上位者大会で若干違う



U.S. Front Line 2001/09/05号掲載記事
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