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2006/4/28アップ
(初掲 2004年7月)



見えない境界線〜人種差別 Now
マイノリティ・コミュニティーに暮らす



          ■ニコラス(仮名)(29歳)
           エスニック:スロバキア人
           職業:建設作業員
           居住地:ニューヨーク
           滞米期間:2年


白人男性であり、流ちょうな英語を話す。しかしステイタスは不法移民という社会的弱者。彼は差別する側? それともされる側?


 中央ヨーロッパのスロバキアから2年前にアメリカにやって来た。母国ではカルチャーセンターのようなところを企画運営するプロデューサーをしていたんだけど、スロバキアはいまだに共産主義の残りカスがあって(*1)、やりたい事に対して制約があったり、いろいろ鬱陶しくなっちゃってね。


*1=チェコ・スロバキア時代の1989年に民主革命が起こって共産主義が終わり、1993年にチェコとスロバキアの2ヶ国に分離


 今はニューヨークで建設作業員として働いている。アメリカで人種差別された経験? 僕は白人で男性でヘテロセクシャル(異性愛者)(*2)だから、差別の対象になることはないよ。だから、どうして僕が今インタビューされているのかも、ちょっと分からない(笑)。



*2=アメリカには「有色人種」「女性」「ゲイ(同性愛者)」をマイノリティーと見なす考えがある。その3つの逆の条件をすべて備えた「異性愛者の白人男性」はマジョリティーの最たる者として捉えられ、時には「マイノリティーをもっとも差別する者」として非難される。その結果、「異性愛者の白人男性」が逆差別を訴えることもある。



■黒人に差別されても気にならない


 でも、よく考えたら、ごく稀にはあるね。ニューヨークに来たばかりの頃、黒人地区に住んでいる友人の家に居候していたんだ。近所のランドリーに行ったら、年配の黒人男性に「こんなところで白人が何してるんだ?!」って言われた。


 こういう些細な体験って、コーヒーを少しこぼしてしまったような感じだ。その時はちょっとムカつくけど、それで終わり。すぐに忘れてしまうよ。


 アメリカ白人から「移民だ」という理由で差別された経験? 僕は実は不法移民だから正規の仕事には就けない。それで建設現場で働いているんだ。同僚も移民ばかりだから、アメリカ人と付き合う機会があまりないんだよ。



■白人移民vsアメリカ黒人


 同僚の顔ぶれ? ポーランド人、ジャマイカ人、イタリア人、それからラティーノたち。そういえばポーランド人のひとりは、黒人のことが大嫌いなんだよ。「あいつらはアニマルだ」って言う。彼は黒人の若者に絡まれて殴られたことが3度もあるそうだ。


 暴力描写の多いヒップホップのビデオクリップなどは、もちろんヨーロッパでも見ることが出来る。だからヨーロッパ人の間に、アメリカ黒人に対するネガティブな先入観がないとは言えない。けれど、同僚のポーランド人がアメリカに来る前から黒人差別主義者だったとは僕には思えない。彼は同僚のジャマイカ人たちとも口をきかないけど、ひどい経験がそうさせたんだよ。そもそも同じ現場で働いてはいても、全員が出身国別にグループを作っているしね。でも僕がいちばん仲が良いのはジャマイカ人のエドワードなんだ。



■見えない境界線〜人種差別 Nowインタビュー:

1)イレイニー
  ドミニカ系アメリカ人(ラティーノ)

2)シドニー
  アフリカ人/ハイチ人/アメリカ人

3)ヴィンセント + アントワネット
  プエルトリコ系+アフリカンアメリカン + アフリカンアメリカン

4)エリカ + マーク
  日本人 + アフリカンアメリカン

5)チャーリー
  東アジア系移民

6)ニコラス
  スロバキア人移民





※ U.S.FrontLine その他の記事

U.S. FrontLine No.219(2004/07/第1週号)掲載記事
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文・写真:堂本かおる