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2006/4/28アップ
(初掲 2004年7月)



見えない境界線〜人種差別 Now
マイノリティ・コミュニティーに暮らす



          ■エリカ(仮名)(25歳)
           エスニック:日本人
           職業:学生
           居住地:ニューヨーク
           滞米期間:5年

          ■マーク(仮名)(25歳)
           エスニック:アフリカンアメリカン
           職業:会社員/通訳
           居住地:ニューヨーク



日本人の妻と黒人の夫。ともにマイノリティーとしての差別体験を持つ。さらにそれぞれが属するマイノリティー・グループの中でも、自分の立ち位置を確かめなくてはならない


エリカ

 マンハッタンに私たち夫婦お気に入りのイタリアン・レストランがあったんです。ある日、その店でオーナーらしき男性が各テーブルを順番に回ってお客さんに声をかけていたのですが、私たちのテーブルと、白人とアジア系のお客さんが一緒に座っているテーブルを飛ばし、白人客だけのテーブルに行っちゃったんです。それ以来、そのレストランには行っていません。


マーク

 子どもの頃、白人地区の店に買い物に行くと、万引きをするつもりなど全然なかったのに、店員に後を付けられてイヤだった思い出があります。高校生の時には、本のたくさん入った大きなバックパックを背負って、トレンチコートを着て歩いていたら、警官に不審尋問をされたことがあります。黒人地区でのことだったので、通行人たちが警官に「そんな少年のことはほっといてやれよ!」と言ってくれましたが、カバンの中身を調べられました。大人になってからは、夜、道を歩いていたら、私の前を歩いていた白人女性がバッグを自分の胸の前でギュッと抱きしめたことがありました。私は銀行に行こうとしていただけで、彼女をつけていたわけではないのですが(苦笑)。


 私の母はアフリカのナイジェリアからの移民ですが、私自身はアメリカで生まれ育ったので「アメリカ黒人」です。だからさっき挙げたような「黒人」としての差別体験はありますが、「アフリカ移民」としての差別は受けたことがありません。けれど母は「アニマル」だとか、ずいぶんとひどいことをアメリカ黒人から言われたことがあります。そんなことを言う必要が、どこにあるのでしょうか。


エリカ

 私がひとりでアパートを探していた時のことなんですが、黒人地区にいい物件を見つけ、大家に会いました。私は契約できると思い込んでいたんです。ところが断られてしまって。大家は、日本人と中国系や韓国系の区別もできない、教育のないユダヤ系だったんです。私はクレジットカードも持っていたし、銀行の残高だって、そのアパートに住んでいる他の住人(黒人)より絶対にたくさんあったはずなんです。


 え? 日本人の方が中国系や韓国系よりも社会階層が高いと思うかって? えっと……、以前、白人のお客さんが多いネイルサロンで働いていたんです。スタッフは韓国系や中国系がほとんどだったんですけれど、お客さんが、たとえばブルーミングデール(ニューヨークの高級デパート)でのショッピングの話を始めたら、話を合わせられるのは私だけだったんです。日本人の生活レベルが、アメリカのそれにいちばん近いですよね?


 マークがナイジェリア系で、つまりアメリカの黒人グループの中でもマイノリティーであること? そんなこと、これまで考えたこともありませんでした。だってマークは「アメリカ人」ですから!



■見えない境界線〜人種差別 Nowインタビュー:

1)イレイニー
  ドミニカ系アメリカ人(ラティーノ)

2)シドニー
  アフリカ人/ハイチ人/アメリカ人

3)ヴィンセント + アントワネット
  プエルトリコ系+アフリカンアメリカン + アフリカンアメリカン

4)エリカ + マーク
  日本人 + アフリカンアメリカン

5)チャーリー
  東アジア系移民

6)ニコラス
  スロバキア人移民





※ U.S.FrontLine その他の記事

U.S. FrontLine No.219(2004/07/第1週号)掲載記事
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文・写真:堂本かおる