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ハーレムで味わう黒人家庭料理ソウルフード
Soul Food ~ Harlem, New York



料理の裏にある黒人史、ユニークな食材、レストランで働く人々の笑顔ともてなし。ソウルフードは豊かな黒人文化の美味しい象徴だ。


■ソウルフードの歴史


 アメリカ黒人の多くは、かつてアフリカ大陸から北米に連れて来られた奴隷の子孫。当時、アメリカ南部諸州の白人農場主は奴隷たちにきびしい労働を課し、自分は決して食べない残り物の食材を与えた。ブタ肉なら脚、耳、尻尾、内臓など。女性たちは、それらの限られた食材に母なる大地アフリカのフレイバーを加え、美味しく栄養満点の料理に仕立て上げた。これがソウルフードのルーツだ。後に黒人たちは東海岸の大都市ニューヨークやシカゴなどを始め、全米に散らばり、それぞれの街で親子代々ソウルフードを伝えてきた。


■ハーレム・ソウルフード・アラカルト


 マンハッタン北部に位置する黒人コミュニティー、ハーレムにはソウルフードレストランがひしめいている。ひとくちにソウルフードとはいっても、それぞれの店がユニークなスタイルを持っている。


 ガイドブックでもお馴染みの老舗「シルビアズ」は、もっともスタンダードな店と言えるだろう。耳年増な観光客は「シルビアズって観光客向けでしょ?」などと言うが、南部出身のシルビアおばさんが仕切るこの店には、地元の常連客も足繁く通う。
 メニューには特製ソースを使ったBBQ(バーベキュー)、フライドチキン、牛の尻尾を煮込んだオックステールシチューなどが並ぶ。
 ソウルフードレストランではメイン料理をひとつ選び、サイドディッシュ2品を添えるのが一般的。サイドにもユニークなメニューがいくつもあるが、中でも厚手の高菜のような菜っぱを煮込んだカラードグリーンは日本人の口にもよく合う。トウモロコシの粉で焼いたホクホクのコーンブレッドは、頼まなくても出てくる。

 カウンター席だけの「パンパン」は、まさに“ソウルフードの大衆食堂”だ。やはり南部出身のオーナーのベンおじさんは言う。「知らない者同士が隣り合わせに座り、いつの間にか世間話を始めて仲良くなっちゃうんだよ」
 この店には1950〜60年代に流行り、現在では見かけることの少なくなったU字型の客席カウンターがある。つい先日も、この店のレトロな雰囲気が気に入った人気R&Bシンガーのアリシア・キーズが、新曲のビデオロケをここで行った。
 人気メニューはチキン&ワッフルだ。フライドチキンとワッフルとは一見奇妙に思えるが、ソウルフードでは定番の取り合わせ。他にも白トウモロコシのお粥グリッツ、サケを使ったハンバーグのようなサーモンコロッケなど、庶民的な料理が楽しめる。


 「ソウルフードを食べながらジャズも聴きたい」とは、多くの観光客から出されるリクエスト。
 ハーレムの高級住宅地シュガーヒルには、ハーレムの知識人が集まる「シュガーヒル・ビストロ」がある。外観もインテリアもゴージャスで、洗練された味わいのソウルフードと共に、聴き応えのあるジャズが楽しめる。
 他にはレストラン、バー、ラウンジを持つ「ジミーズ・アップタウン」もあり、ジャズライブの他にゴスペルブランチも行っている。


 ハーレムに限らず、黒人が暮らす街には必ずソウルフードの店がある。ただし、それぞれの場所の特産物と、そのエリアの黒人が持つ歴史によってメニューが変わってくる。
 昔、ルイジアナ州ニューオーリンズにはケイジャンと呼ばれるフランス系移民が入植した。しかし黒人が料理人として働かされたので、ふたつの食文化がミックスされ、なおかつ南部特有の湿地帯バイユーで獲れるクロウフィッシュ(ザリガニ)、ミシシッピ川のキャットフィッシュ(ナマズ)などを使うソウルフードが生まれた。ハーレムにもルイジアナ出身のオーナーが経営する、その名も「バイユー」というレストランがある。 
 奴隷制当時、アフリカからカリブ海諸島に連れて行かれた奴隷たちも多かった。その子孫が後にアメリカに移住してオープンさせたのが、カリビアン・ソウルフードの店だ。スパイシーなソースにつけ込んで焼くジャークチキン、ヤギ肉を使うゴートカリーなど、やはりユニークなカリビアンメニューを楽しむことが出来る。ハーレムに今年オープンしたばかりの「モー・ベイ」では、ジャズ・ライブもある。


■ソウルフードを200%楽しむには


 近年、治安の良くなったハーレムに足を延ばしたがる観光客が増えている。理由は、ニューヨーク旅行のリピーターはマンハッタンの大方のエリアをすでに制覇しており、未制覇の場所に行きたがることと、ゴスペルやヒップホップなどの黒人音楽およびブラックファッションの流行だ。
 とはいえ、日本では上記以外のアメリカ黒人文化や黒人史はまだまだ知られていない。観光客をソウルフードレストランに連れて行くだけでは、単に「美味しかったね」で終わってしまう。しかしパンフレットに簡単な黒人史や料理の由来を記し、ガイドが客と店員とのコミュニケーションを取り持つなどすれば、客の満足度は200%増すのではないだろうか。
 つまりガイドや旅行会社自身が黒人文化を理解し、客に対してどれだけリアルでポジティブな紹介の仕方ができるかが、ソウルフード観光のポイントになるだろう。

トラベルジャーナル 2003年12月15日号掲載
禁転載




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