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シティグループとハーレムYMCA
大企業と非営利団体
寄付社会アメリカ


 2004年4月7日、シティバンクを中核とする世界最大の金融グループ、シティグループのCEO、チャック・プリンスを載せたリムジンが、ニューヨークの黒人地区ハーレムにあるハーレムYMCAの前に横付けされた。



  過日、シティグループは今後10年間に予算2億ドルをかけて「ファイナンシャル教育」プロジェクトを世界規模で推進することを発表した。今日はハーレムYMCAの子どもたちを対象に、その第一回目の“授業”が行われるとともに、プロジェクトお披露目のセレモニーが開催されるのだ。


 ハーレムYMCAの体育館内は、シティグループ側が持ち込んだ会場セットにより見違えるほど豪華に飾られた。CEOの他にも幹部が大勢詰めかけ、ニューヨークの政治家も多数が列席し、次々とスピーチを行った。


 地下にあるコンピュータ教室では、シティグループが開発した小学生用のファイナンシャル教育ソフトを使い、子どもたちが「必要なもの」と「欲しいもの」の違いを学んでいた。


 「食べ物は生きていくために必要なものだけど、コンピュータゲームは君たちが“欲しい”と思うものだね?」と、インストラクターが分かりやすい例を挙げて、健全な経済生活を営むための基礎概念を教えていく。「ほかには何が“必要なもの”かな?」という質問に、8歳の少年が元気よく答える。「キャンディー!」 室内に笑いがあふれる。その様子を、やはりシティグループ側が手配したテレビ局や新聞社が取材している。



■非営利団体の収入源


 非営利団体としては全米第2の規模を持つYMCAは、ホテルやスポーツジム以外に、学童保育や成人向けのいわゆる文化教室など、地域(コミュニティー)サービスを主な活動としている。ハーレムYMCAの収入源は多いものから順に政府・州・市などからの公的援助金、企業からの寄付、各種基金からの寄付、ホテルや学童保育などからの収入となっている。


 公的援助金が基盤になっているとはいえ、それだけでは運営は成り立たず、各支部がそれぞれに私企業から多額の寄付を受け取っている。そのためにYMCA幹部職員はスポンサー企業との親密なコネクションを保ち、いかにして多額の寄付を得るかに腐心している。このあたり、顧客獲得に躍起になる一般企業の営業職と似ていると言えるだろう。



■大企業のイメージ戦略


 一方、アメリカの大企業は地域団体や教育団体に盛大に寄付をする。寄付金は非課税対象となることも理由のひとつではあるが、最大の目的は企業イメージを高めることだ。


 今回のシティグループのファイナンシャル教育プロジェクト自体が企業イメージを向上させるためのものだが、そのセレモニーを、アメリカの黒人地区としてはもっとも知名度の高いハーレムで開いたこともまた、イメージ戦略上の決定だったと言える。


 ハーレムでイベントを開けば、全米のマイノリティーに「シティバンクはマイノリティーにフレンドリーな銀行」というイメージを与えることになる。また、YMCA自体にも全米レベルの知名度があり、「シティグループ/YMCA」の取り合わせが人の関心を引きやすいという計算もあったことだろう。


 それに“寄付”とは言っても、ハーレムYMCA側が自由に使える現金を寄付しているわけではない。ハーレムYMCAの幹部職員によると、シティグループは今年、ハーレムYMCAに総計約20万ドルを拠出するが、それは今回のイベントや、ハーレムの高校生が南部諸州の黒人大学を見学に行く「ブラックカレッジ・ツアー」の費用負担であったりする。なぜならそういったイベントでは、パンフレットから参加者へのおみやげであるペンやマウスパッドといった小物、会場に貼られるバナーに至るまで、シティのロゴ入りグッズがばらまかれ、広告効果を発揮するからだ。



 このように書くと、企業側が寄付と引き換えに非営利団体を広告塔として使っているように思えるかもしれないが、非営利団体側も巧みに企業を利用している。再開発に伴い、近年ハーレムにはいくつもの銀行が支店を開いた。その多くがハーレムYMCAに寄付を申し出ており、YMCAはそれらを受け入れている。「今月はA銀行のサポートによる成人向け貯蓄セミナー、来月はB銀行による支援者招待ディナーパーティー」といった具合だ。


 これが大企業と非営利団体の、持ちつ持たれつの関係だ。日本では寄付は“篤志”の表れと受け取られるし、非営利団体は“清廉潔白/謹厳実直”なイメージを保たなければならない。しかし、ここアメリカでは双方がそれぞれの利益をとことん追求し、その利害が一致すれば「We are the great partners!」と公言する。なんともアメリカ式な合理性なのである。


U.S. FrontLine
2004/5月第2週号掲載
禁転載




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