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オレオ
〜OREO〜
アメリカンブランド こぼれ話 #09


 2枚のチョコレート・クッキーに白いクリームが挟まれたオレオは、アメリカで最も愛されているクッキー。そのオレオには伝統的な食べ方がある。まず2枚のクッキーをはがし(Twisting)、最初にクリームを舐め(Nibbling)、それからクッキーをミルクに浸して(Dunking)食べるのだ。多くのアメリカ人のアルバムには、口のまわりをミルク浸けのオレオで茶色くし、満面の笑みをたたえた子どもの頃の写真が残っているという。さらには大人になってもこの習慣を変えられない人も多いとか。

 さて、このオレオ、正式名称を「オレオ・チョコレート・サンドイッチ・クッキーズ」といい、今年で誕生90周年を迎えている。製造元のナビスコ社は1898年に幾つかの焼き菓子会社が合併したもので、社名のNaBisCoはNational Biscuit Company の略。このナビスコ社が1912年に発売した新製品がオレオだった。 当初の製品も現在のものとほとんど変わらず、クッキーに型どりしてあるロゴのデザインが多少違う程度。

 その後のオレオの変遷には、時代の流れが表れている。昔はシンプルな製品が好まれ、発売から63年間はオリジナル・オレオのみだった。ところが消費者の好みが徐々に多様化し、1975年にクリームの量を倍増した「ダブル・スタッフ・オレオ」が発売された。当時は現在のようなダイエット・ブームもなく、クリーム増量でカロリーが増えても好評だった。ところが1990年代になると消費者は低カロリー食品を求めだし、オレオも脂肪分を減らした「リデュースド・ファット・オレオ」を開発。 以後はひとくちサイズの「ミニ・オレオ」、赤いクリームをはさんだクリスマス限定オレオ、昨年は「チョコレート・クリーム・オレオ」、今年は2種類のクリームをはさんだ「ダブル・デライト・オレオ」と、バリエーションをどんどんと広げている。この間、常に“アメリカで一番売れているクッキー”の座を守ってきたオレオの総販売数は、なんと4,900億枚。縦に積み重ねれば地球と月のあいだを6往復、横に並べれば地球を516周もするという。

 ところでナビスコ社は、オレオの他にもクラッカー「Ritz」など多数のスナック類を発売しているが、2000年にタバコ会社のフィリップ・モリス社に買収され、それ以前に既に同社に買収されていたクラフト社の一部に組み込まれている。クラフト社はクリームチーズの「フィラデルフィア」、ゼリーの「Jell-O」、ファストフード・チェーンの「タコベル」など、61種もの食品ブランドを持つ全米最大の食品会社だ。

 一方、フィリップ・モリス社は「マルボロ」「バージニア・スリム」などを発売している大手タバコ会社だが、全米規模で禁煙ブームが進む中、斜陽になっていくことが明らかなタバコ産業に変わる収入源が必要となり、クラフト社を含む多くの企業の買収を進めている。その結果、ナビスコ、クラフトの売り上げを含むフィリップ・モリス社の2001年度の全世界事業総収入は899億ドルにも上っている。

 “アメリカで一番売れているクッキー”であるオレオも含め、アメリカでクラフト社傘下の食品を口にせずに生活をすることはかなり難しい。従ってオレオ・ファンの子どもたちも含めた一般人はもちろん、たとえ強行な嫌煙派であっても、日常の食生活のなかで知らず知らずのうちにフィリップ・モリス社の売り上げに貢献していることになる。これはアメリカ産業界の企業買収システムがもたらした不思議で不条理な現象といえるだろう。


U.S. FrontLine2002年10/20号掲載
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