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バドワイザー
〜Budwisel〜
アメリカンブランド こぼれ話 #03

 その「軽い飲み口」で「世界売上げナンバー・ワン」の座を欲しいままにし、自ら「キング・オブ・ビア」と名乗るバドワイザーは、いかにもアメリカ的で派手なイメージのビールだ。ところがその歴史の出発点は、実はヨーロッパにある。

 1839年にドイツの裕福な商家に生まれたアドルファス・ブッシュは、新大陸アメリカへの期待に胸をふくらませ、弱冠18才でセントルイスへと移住。いったん自らの会社を成功させた後、経営危機に陥っていた妻の父親アンハイザーの醸造会社を見事に立ち直らせた。この会社が、現在もバドワイザーの製造販売元であるアンハイザー・ブッシュ社(通称A-B社)の原形だ。

 そしてブッシュは1876年に、いよいよバドワイザーを発売する。これはチェコの銘品ビールの名「ブジェヨヴィツェ(ドイツ語ではブドヴァイゼル)」の英語読み。この件でA-B社は本家チェコのビール会社から商標違反で訴えられたが、1883年に製造販売権を勝ち取っており、アメリカ国内では現在もチェコ版は流通していない。しかも、それから100年以上経つ現在に至るまで、ヨーロッパ諸国では二社間の法廷闘争が絶え間なく続いている。

 ブッシュは以後もその商才をフルに発揮して銀行やホテル業にまで手を広げ、1913年に80歳で死去。以後はブッシュの息子オーガスト、孫のアドルファス三世とオーガスト二世、曾孫のオーガスト三世が順に社長の座に就いており、現在は曾々孫にあたるアドルファス四世もバドワイザー部門の副社長を務めている。

 アメリカの大企業でここまで世襲制を守っているところは珍しく、これが同社の堅牢な経営の理由かもしれない。けれど長い歴史の中には幾つかの危機ももちろんあった。特にアメリカ政府がすべてのアルコール飲料を禁止した禁酒法(1920-1933)は醸造会社にとっては死亡宣告も同じ。しかし初代ブッシュの柔軟なビジネス思想を受け継いだA-B社は、ひるむことなくアイスクリームなど様々な異業界に進出し、苦境をしのいだ。

 禁酒法の終焉と共にふたたびバドワイザーの製造に戻った同社は破竹の勢いで快進撃を続け、2000年度の世界総売り上げは143億ドル。現在アメリカで飲まれているビールの5本に1本は“バド”だ。そして昨年、名実ともに「キング・オブ・ビア」であるバドワイザーは、その誕生125周年を迎えた。

 このような歴史を持つA-B社だが、近年のバドワイザーはその派手なテレビ・コマーシャルがなんと言っても目を引く。スーパーボウル枠でオンエアされる、放映料200万ドルの特別CMは毎年大きな話題となるし、レギュラー枠のCMにも傑作は多い。中でも一昨年の「Whassap?!」CMは大ヒットとなった。

 自宅でくつろぐ若い黒人男性5人が「ワサッ〜プ?!(最近どう?!)」の応酬を繰り広げるこのCMは、ビールのメイン購買層である20代の男性を見事に引き付け、「ワサッ〜プ?!」は流行語にすらなった。そして昨年からは、やはりユーモラスな「'ow you doin'?」CMがオンエア中である。今度はポーカー仲間がひたすら「アウ・ユー・ドゥーイン?」を繰り返すこのCMは、イタリア系マフィアを描いた大ヒット・ドラマ「ザ・ソプラノズ」にインスパイアされて作られたという。

 ドイツ系親族経営企業が創り出す、ポップでライトなアメリカン・カルチャー。このミスマッチこそがバドワイザーの人気の秘密かも知れない。

U.S. FrontLine 2001年6月号より転載




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