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2005/03/26



ブルックリンのレストラン
ニュージャージーのプロジェクト





エブリディ・ピープル Everyday People (2004)



 これはアメリカのケーブルテレビ局HBO製作の映画。日本ではおそらくDVD化されていないと思うので、長い間レビューも書かなかった。けれど、<黒人中流層>の意識が描かれた、貴重にして優れた作品なので、やはり書こう。


 ニューヨークのダウンタウン・ブルックリンにある老舗レストラン、ラスキンズを舞台に、ウェイトレス、ウェイター、皿洗い、オーナー、お客などが織りなすアンサンブル・ドラマ。タイトルの「エブリディ・ピープル」とは、<日常の人々><普通の人々>と言った意味合いで、ごく普通の人々が日常生活の中で抱えてしまう、それぞれの小さなドラマを綴っていくスタイルだ。


 ダウンタウン・ブルックリンは人種の混じったエリアなので、このドラマの登場人物も黒人、白人、ユダヤ系とミックスながら、メインキャラクター9人のうち、6人が黒人。(上記の写真、右から6人が黒人)

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 これら黒人キャラクターの多くは中流、もしくは中の上流層だ。特にベティとロンは不動産開発企業に勤めるエリート。老舗レストランを買収し、新しいビルを建てようとしている。仕事の場においては、2人は自分が黒人であることなど意識はしない。一流企業員として着々と仕事を進めていく……ように見える。


 ところが、ベティは自分は一流企業、つまり白人社会をサバイバルしてきた<フィールドニガー>だと宣言する。フィールドニガーとは、昔、厳しい農作業をさせられた黒人奴隷のことだ。高等教育を受け、一流企業に勤務し、洗練されたファッションをまとい、前夫は白人だったにも関わらず、自分が黒人であることを強烈に意識しているのだ。


 ロンの方は、極端な黒人主義者アクバーから議論を挑まれ、ストリートにたむろする黒人の若者に理由もなく殴られ、バーでなごむ年配の黒人女性と会話を交わし、無意識に白人化しようとしていた自分に気付く。


 レストランでウェイトレスをしているエリンは、一流企業でキャリアを積んできた母親ベティを白人化した黒人とみなし、自分自身は黒人であることを詩で表現しようとする。しかし、豊かな家庭に育ったエリンは母親の苦労も、ストリートのことも知らない。


 エリンと共にウェイトレスをしている白人女性ジョリーンは、黒人主義者の客アクバーから、理由もなく人種差別主義者と非難される。しかし、ジョリーンは黒人男性との間に出来たミックスの子どもを持つシングルマザーであり、生活費のためにストリップダンサーになろうとしている。


 アクバーは、ストリートにたむろする黒人の若者を説教し、はなもちならない態度の黒人エリートのロンを言い負かし、白人ウェイトレスのジョリーンが黒人差別主義者か試そうとする。しかし、自分が実際には何も成し得ていない負け犬のような気分に、時として陥る。

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 黒人映画の多くは、ゲットーに暮らす低所得者層にフォーカスし、ドラッグ、暴力、セックスを大袈裟に見せるか、もしくは実際には有り得ないオシャレでリッチなアーバン・ライフスタイルを写したグラビア写真のようになっている。


 この「エブリディ・ピープル」には、そのどちらも登場しない。多彩なバックグラウンドを持つ黒人が多数登場し、彼らの日常生活が静かに、淡々と描かれるのみ。けれど、<成功した黒人も含めて、アメリカという国では、黒人は黒人であるということに対峙し続けなければならない>ということが、強烈ににじみ出ている。




フリーダムランド Freedomland (2006)



作品のテーマである人種問題が
全く表わされていないポスター
 残念! もっと良くなることも出来た作品なのに、もったいない。サミュエル・L・ジャクソンはいつものサミュエル節だったので、問題はジュリアン・ムーアか。


 「昔はジャンキーだったけど、もう5年もクリーンなのよ」って、まるで現役ジャンキーのような喋り方で、それがくどい。ジュリアン・ムーアは良い女優さんだけれど、キレイどころの役ばかりやっている人なので、今回は入れ込み過ぎたのではないかな。




 ジュリアン・ムーアのミスキャストはいったん忘れるとして、この映画、予告編と本編で、まるで違う作品のようだった。予告編は行方不明の子どもを巡る刑事サスペンスのように編集されていた。


 ところが本編を観てみると、なんと人種間の軋轢、分かりやすく言うと<黒人と白人の対立>の物語だった。同名小説「Freedomland」の映画化作品で、原作者はリチャード・プライス。スパイク・リー監督の「クロッカーズ」を書いた人だった。なるへそ。


 映画版「クロッカーズ」は、スパイク・リーの好みによってブルックリンのプロジェクト(低所得者公団)が舞台になっていたけれど、原作ではニュージャージーが舞台だった。「フリーダムランド」の方は、映画も原作通りにニュージャージーのプロジェクトの話となっている。

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 黒人ばかりが暮らすプロジェクトの近くで、白人女性(ジュリアン・ムーア)が何者かに車を奪われた。犯人は後部座席に子どもがいることに気付かないまま、運転していた女性を車から放り出し、走り去ったのだ。


 女性が「犯人は黒人男性だった」と言ったことから、警察はプロジェクトを封鎖して大掛かりな捜査を始める。プロジェクトの住人たちは、「過去に黒人が犠牲者の事件がいくつもあったのに、こんな捜査は成されなかった。白人が犠牲者だと、どうしてこうなるんだ!」と抗議の声を上げる。


 住人たちと親しい黒人刑事(サミュエル・L・ジャクソン)は警察と住人の板挟みになり、事態を収拾するために捜査に乗り出すが、女性の証言に不信感を覚える…。

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 予告編で人種問題をほとんど匂わせなかったのは、興行成績を上げるためだと思われる。人種問題を取り上げた作品は、白人はあまり観たがらない。だから刑事サスペンスだと思って劇場に足を運んだ観客は、プロジェクトの住人である黒人たちと暴動ギア装着の警官隊がにらみ合うシーンを見て驚いたと思う。「なんなんだよ、これは!?」


 この作品、映画より原作を読む方が良いのかもしれない。




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