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2003/01/13

最近観た映画6本

昨年末に観た映画を、まとめて、たららっと書いてみます。



●Formula 51(邦題:ケミカル51)


 ドラッグ調剤士兼ディーラーのサミュエル・L・ジャクソンがイギリスに飛び、一世一代の大仕事にかかるのですが、そこにはサッカー狂のチンピラがいて、なぜか事態はまずいほうへと転がるばかり。


 相手役は『フル・モンティ』のロバート・カーライルで、「米英の個性派俳優が化学反応を起こした」みたいなレビューもありましたが、私には今ひとつピンときませんでした。


 でも、コーンロウ+キルト+ゴルフバッグという、サミュエル・L・ジャクソンにしか出来ない凄いいで立ち。この人は本当にどんな服でも着こなしてしまうから不思議です。これを見られるだけで充分満足、もう映画自体はどうでもいいですね。ちなみに監督は台湾出身のロニー・ユーという人です。


 昨夜、アル・パチーノがニューヨークの情けない刑事を演じた『シー・オブ・ラブ』(89)をテレビで見ていたら、サミュエル・L・ジャクソンがチンピラ役で一瞬出ていました。思えば、これは『ドゥ・ザ・ライト・シング』と同じ年に作られた作品で、当時はまだ脇役専門だったんですね。(感慨)


映画公式サイト 
http://www.c-51.com/index2.html



●I Spy(アイ・スパイ)


 エディ・マーフィとオーウェン・ウィルソンが、往年のテレビ・シリーズ『アイ・スパイ』をリメイクしたものです。原作ではテニス・プレイヤーと、ビル・コスビー演じるトレーナーの白黒コンビが、実はスパイとしてして大活躍、というストーリー。こう書けばなんてことない設定に聞こえますが、1960年代に黒人俳優が連続テレビ・ドラマの主役だなんて凄いことだったのです。


 さて、現代版ではオーウェン・ウィルソンが全然冴えないCIAエージェントを、エディ・マーフィは彼のいつものキャラ全開の派手好き傲慢な超人気ボクサーを演じています。このふたりがはるばるウィーンまで赴き、秘密兵器を巡って騒動を繰り広げます。


 観客のなかにはオリジナルのファンだったに違いないおじさんたちを見かけました。でも、見終わった後は、みなさん一様にがっかりしていたようです。オリジナルを見たことのない私は比較はできないのですが、でも、映画の出来はいまいちと言わざるを得ないですね。


 ところでオーウェン・ウィルソンは、今回は黒人の良き相棒(バディ)を演じ、数年前には『シャンハイ・ヌーン』でジャッキー・チェンと組んでいます。こちらは好評だったので、続編『シャンハイ・ナイツ』が公開真近。すっかりマイノリティ俳優の相棒専門になってしまったようです。


映画公式サイト 
http://www.sonypictures.com/movies/ispy/



●8 Mile(エイト・マイル)


 デトロイト郊外の、くすんだ街並み。自動車工場とトレーラーハウス。中産階級エリアとの境界線となっている "8 Mile Road" という名の道路…。そこに、母、妹と共に暮らす白人の若者が、黒人たちの「白人にラップなんかできねーよー」的あざけりを超えて成功するという、エミネムの半自伝的ストーリー。


 そういえば、黒人コメディアン、クリス・ロックの書いた本に、「ラッパーはプロジェクト(低所得者団地)出身、カントリー歌手はトレーラーハウス出身」「どちらも自分のことばっかりで意味のない歌詞」など、ヒップホップとカントリーの共通点が並べてあり、要は「どっちも貧乏人の音楽」というくだりがあって大笑いしたことを思い出しました。


 余談はさておき、エミネムの他にも、 ヅラなんだか、エクステンションなんだか分かりませんが、ドレッドロックですごいことになってしまったメキ(メカイ)・ファイファー、堕落しまくっているのに清楚さを失わない不思議な母親役のキム・ベイシンガーが良かったです。


 でも、ちょっと不条理を感じましたね。黒人であれ、アジア系であれ、マイノリティが白人社会に進出する際には必ず、ある種のプレッシャーがあるわけです。でも、それは当たり前すぎて映画にはならないですよね。でも、白人が黒人世界に飛び込んでがんばる話なら映画にもなってしまうわけです。


映画公式サイト 
http://www.8-mile.com/



●007/Die Another Day(007/ダイ・アナザー・デイ)


 特にコメントはありませんが、007が氷でできた白鳥型のベッドで敵の女とやっちゃうのですが、私の後ろに座っていた10代の女の子が「あれ、寒いんじゃない?」とつぶやいてました。


 でも、北朝鮮が敵っていうのは、いかにもタイムリーでしたね。北朝鮮はこの映画が「冒涜的」とクレームをつけているらしいですが。


映画公式サイト 
http://www.foxjapan.com/movies/dieanotherday/index2.html



●Antowone Fisher(アントワン・フィッシャー)


 デンゼル・ワシントン入魂の監督第一作で、アントワン・フィッシャーという人が書いた自伝を映画化した作品です。最悪の家庭環境に生まれて里親に出された少年アントワンは、里親からも激烈な虐待を受けてしまいます。辛い体験の積み重ねが、押さえることのできない怒りとなり、海軍に入ってからも自分をコントロールすることの出来ないアントワンは、精神科医(デンゼル・ワシントン)のカウンセリングを受けることに。やがてふたりの間には強い絆が芽生えて…。


 アメリカ独特の医療保険制度を批判した『ジョンQ 最後の決断』が日本であれほどヒットしたのには驚きました。やはりアカデミー効果だったのでしょうか。本作では、やはり問題だらけのアメリカの里親制度がでてきますが、里親のおばちゃんの、ものすごい人非人振り・偽善振りが強調されるばかりで、里親のシステム自体は、アメリカ以外の観客には分かりにくいと思います。ここが少々残念です。(里子を養うと謝礼金がもらえるので、この映画に出てくるように複数の子供を預かったり、毎年切れ目なくいろいろな子供を預かったりする“プロの里親”もいます。養子とは違い、あくまで数年預かるだけです)


 映画のトーンは、どこを切ってもデンゼル節。しみじみと真面目です。デンゼルは、もし自分がもう少し若ければ、自分で主役を演じてみたかったのではないでしょうか?でも、主役のデレク・ルークは素人ながら良い感じです。演技力の話ではなく、なぜか印象に残るタイプで、すでに次作『Biker Boyz』も公開が迫っています。(この『Biker Boyz』は、ここ数年増えている若い黒人バイカー・チームを主人公にしたアクションもの。映画自体の善し悪しはまだ分かりませんが、黒人の新しいストリート・カルチャーがこんなに素早く映画化される時代になったんだなあと感心しました。黒人は娯楽映画をたくさん見るので、ビジネスとして成り立つのでしょう。ちなみに、チームのボスはローレンス・フィッシュバーンで、さすがに少々トウがたっている…かもです)



映画公式サイト 
http://www2.foxsearchlight.com/antwonefisher/main.php



●Drumline(ドラムライン)


 ハーレムの天才ドラマー少年(ニック・キャノン)が、音楽奨学金を得て南部の黒人大学に進み、そこでマーチングバンドに参加するというお話。バンドはアメフトの試合のハーフタイムが晴れの舞台で、チアリーダー(というよりヒップホップPVのダンサーに近い衣装と振り付け)と共に、それはそれは派手に場を盛り上げます。


 ところが見かけの派手さとは打って変わり、普段の練習は体育会系の厳しさ。天才故に生意気な態度の主人公は、先輩とぶつかり、コーチに叱られ、大変な日々を送ります。このあたり、まったくの青春ドラマですが、あまり知る機会のない南部黒人大学や、そのマーチングバンドの内情などはとても興味深いです。特に、バンドの選曲やパフォーマンスも最近はヒップホップ・フレイバーを取り入れた大仰なものでないとウケないなどなど。(学生は古くさい曲など嫌いだし、大学経営者側は生徒数を集めるために若者に人気のある曲を演奏させたがるわけです)


 でも、いちばんの見所は、なんと言ってもバンド対決です。大学二校のバンドが向き合って整列し、ドラムがメインとなっての演奏合戦。テクニックはもちろんのこと、相手の挑発にのらない冷静さも求められ、つまり、あふれるリズムと緊迫感という、本来なら相容れないふたつの要素がからみ合って、手に汗握るシーンでした。結論としては、誰が見ても楽しめる優れた娯楽作品ということで、お勧めですね。ただひとつ残念だったのは、ハーレムの描写が皆無だったことかな。監督は『Paid in Full』のチャールス・ストーン三世。


映画公式サイト 
http://www.drumlinemovie.com/



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