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2002/10/16

マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング
白人でもマイノリティ?
最近観たエスニック映画より



 今、アメリカでは「マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング」という映画が話題になっている。シカゴを舞台にギリシャ系移民の娘とWASPの男性が結婚に至るまでの騒動をユーモアたっぷりに描いたコメディで、4月19日の公開から現在26週目を過ぎ、いまだにボックスオフィス・チャート5位を保っている。普通はチャート10位以内に10週間も留まれば上の上出来なのだから、これは驚異的なこと。実はこの映画、有名な俳優は誰も出演していない低予算作品で、しかもギリシャ系コミュニティの話。したがって最初はごくわずかな映画館で上映されていたものが口コミで評判がどんどん伝わり、観客数が増えるに連れて上映館数も増えていったのだった。


 主人公トゥーラは30代前半の冴えない独身女性で、家族経営のダイナーでウェイトレスをしている。両親はいつまでたっても結婚相手を見つけられないトゥーラを祖国ギリシャに送って花婿探しをさせようかとすら考えている。ところがある日、トゥーラはハンサムでやさしいWASP男性と恋に落ちる。さぁ、ここからが大変。なにしろ家族、親戚、友人の中にはギリシャ系以外と結婚した者がいない。家の中は上を下への大騒ぎとなる…。


 この映画の素晴らしいところは、誰もが個性豊かな愛すべき人物として描かれているところ。トゥーラの父親は生粋のギリシャ人だけれど、傷にはウィンデックス(アメリカのガラス磨きスプレー)が効くと信じ込んでいて、ケガをした者には誰彼かまわずウィンデックスをスプレーする。叔母はハデなヘアスタイルとドレスで喋りまくる。妹は“出産マシーン”と化して子だくさん家庭を切り盛りしている。


 トゥーラの恋人イアンの両親は上流階級の上品な夫婦だけれど、彼らもまた愛すべき善人。にぎやかな、というよりは喧しいギリシャ式のマナーに目を白黒させながらも、なんとかそれを受け入れようと努力する。もっとも現実の社会では“アメリカの白人=マジョリティ”が、ここまでエスニック色の強い“移民=マイノリティ”を家族の一員として迎え入れることには相当の抵抗があり、この作品のようにスムーズにはいかないはず。


 実はトゥーラもギリシャ系だから白人だし、アメリカ生まれだから国籍もアメリカ。けれど日常生活で色濃いギリシャ文化を背負っているので(小学生の頃、ランチボックスの中身がギリシャ料理だったために友達にからかわれたりする)、このアメリカ社会では“移民”“マイノリティ”として捉えられる。また本人たちにもコミュニティの中でのみ暮らそうとする傾向がある。


 アメリカにはギリシャ系だけではなくロシア系や東欧系などの白人移民も多いが、一世には英語が話せない者がいるし、中には違法移民もいる。そうなるともちろん収入の良い仕事には就けない。たとえ白人であっても移民であればアフリカ移民、アジア系移民、ヒスパニック移民など有色人種の移民と同じ苦労をせざるを得ない。(もっともこの作品では、トゥーラの家族・親戚はそれぞれの仕事ですでに成功しており、トゥーラは経済的な苦労は経験せずに育っている)しかしこの映画はそういった移民の苦労ではなくカラフルなエスニック文化を、民族間の軋轢ではなく融和を描いている。だから見終わった時に観客はほのぼのとした気持ちになれるのだ。


 以下は余談いろいろ。

 主人公を演じているニア・ヴァルダロスは、実生活でもギリシャ系以外の男性(ラティーノのイアン・ゴメス。この作品にもマイク役で出演)と結婚しており、その体験を芝居脚本として書き、小さな劇場で上演していた。それを観たリタ・ウィルソンが夫のトム・ハンクスを連れてきて、ふたりでニア・ヴァルダロスに映画化を勧めたのだという。そうやって出来上がったのがこの「マイ・ビッグ・ファット・グリーク・ウェディング」。だからリタ・ウィルソンとトム・ハンクスの名がプロデューサーとしてクレジットされている。


 ニアは以前、ギリシャ系は役者としては成功が難しいから名前をせめてラティーノ風に変えろと勧められたことがあるとか。父親役のマイケル・コンスタンチンもギリシャ系のベテラン俳優だが、ユダヤ系の役を演じることも多い。


 ニアの恋人イアン役のジョン・コルベットは『セレンディピティ』でも良い味を出しているらしい。


 なぜかインシンクのジョーイ・ファトーネがチョイ役で出演している。


 この作品の舞台はシカゴだが、ニューヨークでもダイナーの多くはギリシャ系の経営。なぜか「ギャラクシー」「コスモ」「アンドロメダ」といった宇宙に関連する店名を持っていることが多い。


映画公式サイト 
http://movies.yahoo.com/greekwedding/


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