NYBCT

2002/10/05

バーバーショップ/ボリスティック
アイス・キューブ vs. ルーシー・リュー
最近観た映画より



●バーバーショップ
Barbershop


 アイス・キューブもこれで映画出演17作目。『ボーイズン・ザ・フッド』('91)、『フライデー』シリーズ('95,'00, '02)、『ハイヤー・ラーニング』('95)、『アナコンダ』('97)、『スリー・キングス』('99)と、とても良い感じで大人になってきているなぁと、思わず嬉しくなりました。なんといっても今回の『バーバーショップ』、コメディなのにギャグはすべて他の役者に任せ、自分はひたすら押さえた地味な演技で床屋の三代目を演じています。これが功を奏し、いずれも個性の強い床屋たちのアンサンブルが引き立つこと!その床屋たちとは、コメディアンのセドリック・ザ・エンターテイナー、ラッパーのイブ、『セイブ・ザ・ラスト・ダンス』のショーン・パトリック・トーマス、ジェーン・フォンダの息子(!)であるトロイ・ギャリティ他です。


 このキャストに馴染み客たちが加わり、シカゴのゲットーにある床屋の一日が描かれています。黒人コミュニティの床屋とは、男たちがくだらない冗談やスポーツの話で盛り上がり、お互いにウソだと分かっているホラを吹き合う場所。セドリック・ザ・エンターテイナー演じるベテラン理髪師エディのまくし立ててるホラとヨタとギャグには爆笑必至です。加えて、なんとも“地元”というか、ローカルな雰囲気がよく出ていて和めることこの上なし。ちなみにエディのヨタ話のひとつとして、彼が偉大なる黒人運動のリーダーであるキング牧師やローザ・パークスをおちょくるセリフがあります。これに対して現役黒人リーダーであるジェシ・ジャクソン師とアル・シャープトン師が本気で怒ってしまい、映画をボイコットしろだの、VHS/DVD化の際にはシーンをカットしろだのと、大人気ないことを言ってます。賛同者はあまりいないみたいですけれど。


 この映画について本筋以外で面白いと思えるところは、キャラクターのエスニック設定です。床屋も客も当然ほとんどがアフリカンーアメリカンなのですが、床屋の一人はヒップホップ・ファンの白人だし、下働きをしているのはアフリカ移民で、近所の食料品屋のオーナーはインド人。これ、今のアメリカではとてもリアリティがある設定なのです。特に床屋たちが「食料品屋のオーナーはインド人かパキスタン人か」で言い争ったり、嫌な二枚目野郎がアフリカ移民のディンカを馬鹿にしたりするあたりは、あ、本当にあるある、こんなこと、という感じ。もっともディンカが底抜けのお人好しでノロマ風に描かれているところは議論の余地があるでしょうけれど。


 とにかく楽しさ満点、プラスちょっぴり浪花節っぽいストーリーで、公開第1週、第2週とボックスオフィス1位をさらったのでした。ギャング・モノでもない、リッチ&おしゃれ系でもないブラックムービーがヒットしたことは、かなり良いことですよね。


映画公式サイト http://www.mgm.com/barbershop/


●ボリスティック:エックス vs セヴァー
Ballistic: Ecks vs. Sever



 なんというか、ある意味すごい作品でした。監督が見せたかったのはルーシー・リューのアクション!アクション!アクション!だけなのでした。あらゆる種類の銃を撃ちまくるルーシー、もの凄くかっこよかったですけれど…。その撃ちっ振りは、共演のアントニオ・バンデラスの名作『デスペラード』('95)を思い起こさせました。


 ストーリーはここでは明かしませんが、実はほとんどありません。過去の事件が原因で復讐の鬼と化したセヴァー(ルーシー・リュー)がとにかく銃を撃ちまくり、スティックを使って闘い、爆弾を爆発させる。これだけです。一応ストーリーの核となる超ハイテク秘密兵器があるのですが、これのデザインは爆笑ものでした。…え?注射器を持ったカエル?


 さらに相手役も何故アントニオ・バンデラスなのか、いまいち不明。憂いを帯びた元FBIジェレミー・エックスの役なのですが、上記『デスペラード』で見せた激しさはまったくなく、ルーシーの引き立て役に終始していました。これも監督の意図なのでしょうね。それにしても悪役のボス以外はキャストのほぼ全員に演技力がないというのも特筆モノでしょう。もっともルーシーはセリフらしいセリフがほとんどないのですが。


 ところで、ハリウッド製アクション映画なのに、なーんか全体的にちょっと違う気配の漂う作品だなぁと思っていたら、監督はなんとタイ人のカオス(本名:Wych Kaosayananda)という人でした。ちなみにタイ人監督による英語作品はこれが史上初めてだそうです。監督がマイノリティと聞いて納得できたのがキャスティング。主演は中国系アメリカ人とスペイン人。他にもラティーノ、アジア系、黒人が出ていました。私はアフリカンーアメリカンの夫と観に言ったのですが、口の悪い友人が言いました。「チンクとスピックの映画を、ニガーとジャップで見に行くのか?」。(チンクとは中国人の、スピックとはヒスパニックの蔑称です。これはアメリカ人が場をわきまえて(身内だけのジョークとして)口にしても問題を起こしかねない言葉ですので、日本人は絶対にマネしないでくださいね)


 友人の発言はとんでもないものなのですが、黒人以外のマイノリティによるハリウッド映画がマイノリティの観客を相手にしてビジネスになる時代になったのかなぁと、ちょっと感慨深いものを感じたのでした。

映画公式サイト 
http://www.apple.com/trailers/wb/ecks_vs_sever/


What's New?に戻る
ブラックムービーに戻る

ホーム