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2001/07/15

映画『プーティ・タング』
ブラックカルチャーのセルフ・パロディ決定版


 超くだらないドタバタ・アクションなのに爆笑必至、絶対にもう1回見たい!と思わせるのが、クリス・ロックが手掛けた映画『プーティ・タングPootie Tang 』だ。これはHBOというテレビ局の人気番組「クリス・ロック・ショー」から生まれたキャラクターを映画化したもので、アメリカでは6月末に封切られた。


 何がこんなに可笑しいんだろうと、よくよく考えてみると、実はこれ、全編が古今のブラックカルチャーのパロディなのでは? と気付いた。


●正義の味方プーティ・タング(なんというネーミング!)は、リリースする曲が軒並み大ヒットするスーパースターでもある。ただし全然ルックス良くないし、シャツの前をはだけたファッションもダサい。
オフィシャル・ウェブサイトで、写真をぜひ見て欲しい。これは巷に溢れているラッパー&R&Bシンガーたちのパロディだ。映画中で見ることができるプーティ・タングの新曲のビデオクリップも、よくあるヒップホップのそれのダサ・ダサ・パロディ。


●プーティ・タングの女友達の名前はビギー・ショート。この“デカくてチビ”という意味不明の名前からして既存のラッパーたちの名前をおちょくったものだし、彼女の極彩色のカツラ&悪趣味ファッションが、今どきの黒人の女の子のパロディ。ビギー・ショートが、白人の爺さんに売春婦と間違われるシーンは笑える。それにしても、ビギー・ショート役の女優ワンダ・サイクスが、もう最高に上手くて、笑えるのだ。


●プーティ・タングに叩きのめされる悪者は、1970年代のブラックスプロイテーション(B級黒人アクション映画)に出て来るような、これでもか!なスーツと毛皮のコート姿。


●その悪者たちを、プーティ・タングは父親(クリス・ロック)の形見であるベルトを、ムチかヌンチャクのように操り、一網打尽にしてしまう。そういえば、タングという名前や、黒人のくせに妙に直毛っぽいヘアスタイルも、カンフー映画の影響っぽい。黒人男は大のカンフー・ファンなのだ。


 というわけで、本来はかなり“濃い”はずのこのキャラクター、プーティ・タングなのだけれど、主演のランス・クローサーは、ひたすら淡々と演じる。その淡泊さが、これまた何とも可笑しいのだけれど。


 この映画を手掛けたクリス・ロックは、そもそもコメディアン。こちらでは相当に人気がある。演技力では同じくコメディアンのクリス・タッカーに劣るけれど(ジャッキー・チェン&クリス・タッカーの「ラッシュ・アワー2」が楽しみ)、クリス・ロックは、なんといっても頭が良い。テレビの「クリス・ロック・ショー」でも、他愛のないコントで客を爆笑させるかと思うと、アル・シャープトンなどの黒人活動家や政治家とのトークも対等にこなす。政治家と話すことがイコール頭が良いというわけではなく、それだけネタの幅が広いということ。だから今回の映画「プーティ・タング」でも、クリス・ロックはブラックカルチャーのセルフパロディという上級技を、嫌みなく見せることが出来たのだ。


 ブラックカルチャーは、時に天井しらずの過剰振りを見せる。ファッションやラップのリリックスが、その典型的な例だ。それに酔ってしまわずに自分で自分を笑えるコメディアンって、実は相当にエラいのだ。同胞黒人よ、少し冷静になって自分の姿を鏡に写してみろ、って感じか。


 日本で公開される可能性は薄い作品だけれど、チャンスがあれば、一見の価値あり!


映画公式サイト:
http://www.pootietang.com/


輸入盤サントラ収録曲:
1. Pootie Tangin - 702
2. Dirty Dee - Majic
3. Comin' Up On Somp'n - E-40/Suga T.
4. Poison - Bell Biv DeVoe
5. Make Em Say Ugh - Master P
6. Southern Girl - Erykah Badu
7. I Should've Told You - Ideal
8. I Want To Be Your Man - Zapp/Roger
9. A Woman Needs To Be Loved - K.K.
10. You Know How We Do - Shaquille O'Neal
11. You Know What? - Lil J
12. Yesterday - Roscoe/Nate Dogg
13. Why Pootie Why? - Karl Clanton
14. Ode To Pootie - Tara Jeffers/Qiana Drew/Lorria Richards



おまけ:予告編で見た、なんだかうさん臭い映画
全米9月公開予定「Hardball」・・・シカゴの貧しい黒人地区の子供たちに野球を教える白人コーチ…を演じているのが、なんとキアヌ・リーブス。いいんだろうか、これって。

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