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2000/06/18

シャフト!
黒人による逆差別映画? でもクール!

アルマーニのブラック・レザー・コートをなびかせて、サミュエル・L.ジャクソンがセリフをキメる。“俺の名前を呼んでみろ! What's my name?” …話題の映画「シャフト Shaft」が封切りになった。


これは1971年に作られたブラックスプロイテーション・ムービー(1970年代に流行った黒人B級アクション映画)のヒット作「
シャフト」を、「ボーイズ’ン・ザ・フッド」のジョン・シングルトン監督がリメイクしたものだ。


ストーリーはいたってシンプル。熱血はみだし刑事が法律違反の荒技を使いながら悪を叩きのめすという、よくある勧善懲悪アクション。しかしサミュエル・L.ジャクソンのクールさは半端じゃないし、なんといっても監督は、デビュー作「ボーイズ’ン・ザ・フッド」でのアカデミー監督賞ノミネート最年少記録を持つ社会派ジョン・シングルトンだから、見所は満載。


舞台はニューヨーク。冒頭シーンでサミュエル・L.ジャクソン演じる刑事ジョン・シャフトがいきなり直面するのは人種差別による殺人事件。さすがシングルトン監督、観客を甘やかさない。リッチな白人青年(「アメリカン・サイコ」主役のクリスチャン・ベイル)が、白人ガールフレンドを連れた黒人青年にさんざん嫌がらせをした上に、殺してしまったのだ。そのヤッピー・ガイと黒人青年のやり取りも、KKK(クー・クラックス・クラン:白い三角頭巾がトレード・マークの白人至上主義者団体)を持ち出したりと結構きわどい。


いったんは逮捕されたものの、金にあかせて、まんまと釈放された犯人を許せないシャフトは、あらゆる手を使ってこのレイシストを追いつめてゆくが、その途中でブルックリンのラティーノ・ギャングや悪徳刑事が絡んできて、話はなお一層荒れていく。そしてアクション、アクション、またアクション。少々バイオレンスが過ぎるという気もするぐらいに。しかしシャフトに「イッツ・ジュリアーニ・タイム! ※」というセリフを言わせるところや結末の意外さは、社会派監督の面目躍如。

(※1997年に起きた白人警官によるカリビアン移民虐待事件の際に、白人警官が口にしたとされる言葉。先代の黒人市長時代と違い、マイノリティに厳しい政策を敷くことで知られるジュリアーニ氏が市長の今は、警官がマイノリティに何をしても罪に問われない、という意味。)

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この映画は現在のニューヨークのエスニック事情を知っていると、かなり面白い。主役のシャフトはもちろんアフリカン・アメリカンだけれど、ヴァネッサ・ウィリアムズ演じるタフな同僚刑事カルメン・ヴァスケスは、その名前からも判るようにプエルトリコ系。前述のブルックリンのラティーノ・ギャングは、いまやプエルトリコ系に次ぐ一大勢力となっているドミニカ系という設定だし(彼らがピット・ブルを連れているところなど、かなりリアル。マッチョ指向の若いラティーノ男性はピット・ブルを好んで飼い、ラティーノ地区ではピット・ブルによる違法な闘犬や闘鶏も行われている)、シャフトの助手はラッパーのバスタ・ライムス演じるカリビアン(トリニダード&トバゴ出身という設定)。そう、ニューヨークでは、もはやアフリカン・アメリカンよりもラティーノやカリビアンに勢いがあるのだ。


それにしても各エスニック・グループの描写には、なかなかの誇張や偏ったところがあって、そこが面白いのだけれど、本人たちからはあまり歓迎されないだろうと思われる。例えば、白人は金持ちで人種差別主義者/ドミニカ系は英語の訛りが酷く、興奮すると手がつけられない/イタリア系は太っていて、間が抜けている(その名もマイキー&フランキーという兄弟が出て来る)などなど…。

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他の見所としては、ドミニカ系ギャング役のジェフリー・ライトが良い役者で、普段はそこはかとなくユーモラスなのに、いったん逆上したが最後、とことん見境がなくなるというキャラクターを上手く演じているし、役柄どおり実際にカリビアン(ジャマイカ系)であるラッパーのバスタ・ライムスも、本人のビデオ・クリップや、清涼飲料水マウンテンデューのCMで見せているのと同様のユニークなキャラクターで愛嬌を振りまいている。またハーレムの有名なジャズ・バー、レノックス・ラウンジが出て来るし、初代「シャフト」の監督ゴードン・パークス、初代シャフト役を務めたリチャード・ラウンドトゥリーが特別出演、音楽も初代同様にアイザック・ヘイズが担当というのも、マニアには嬉しいところ。しかし、なんといってもサミュエル・L.ジャクソンの格好良さ。この映画の魅力は、これに尽きる。

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