NYBCT

1999.8.15

ブラックムービーの祭典
アーバンワールド・フィルム・フェスティバル



 
ブラック・ムービーがどんどん増えている。どんどん。黒人監督とオール黒人キャストで黒人のライフスタイルを描いたインディーズ作品から、主役が黒人俳優であることを除けば全くフツーのアクション映画だったり、コメディ映画だったりするハリウッド製まで。観たい!観たい!観たい! でもブラック・ムービーは日本ではなかなか公開されないし、ビデオ化されるのもごくわずか。先日、某大手レンタルビデオ・チェーンT屋にウェズリー・スナイプスとナスターシャ・キンスキーの恋愛もの「ワンナイト・スタンド」を借りに行ったら置いていなかった。ウェズリー・スナイプスだよ? やれやれ。
 
それはさておき、ニューヨークでは8月4日から8日にかけて、全米最大規模のインディーズ・ブラック・ムービーの祭典
「アーバンワールド・フィルム・フェスティバル」が開催された。今年で3回目となるこのフェスティバルは年々その規模を拡大し、今年はメジャー作品のプレミア上映、TV映画、短編、ドキュメンタリーまで含めて62本が出展された。その一部を拾ってみると…(と言っても実際に観た訳ではないので、歯がゆいこと、このうえない)
 
●ア・デイ・イン・ブラック&ホワイト(監督:デズモンド・ホール)
以前にも触れた今年の私的いち押しブラック・アクター、ドレッドロックのスマート・キュート・ガイ:ハロルド・ペリノーが大学生に扮し、白人クラスメイトと人種問題について議論する。お互いの文化からO.J.シンプソン裁判にまで及ぶ話題と、それが周りの人間をも巻き込んでいく様子をユーモアを交えて描いている(らしい)。観たい!けれど、このての作品が日本でビデオ化されることはまずないでしょう。あぁ!
 
●バウンス(監督:アダム・ワトステイン)
サウス・ブロンクス(ニューヨークで最も危険と言われている地域)でラッパーを目指す二人の少年を描いた、実話に基づいた作品。監督は白人。
この映画とは関係ないけれど、以前、サウス・ブロンクスに住む16才のヒスパニックの少年が日々の生活を綴った「The Air Down Here」著:Gil C.Alicea with Carmine DeSena という本を読んだ。知的好奇心に満ちたティーンエイジャーの毎日がシンプルな言葉で生き生きと記されている。学校生活、バスケットボール、ガールフレンドetc,etc … だが同時にサウス・ブロンクスでドラッグやギャングと無縁で生きることの難しさもそこここに書かれている。5番街の華やかさもニューヨークなら、ゲットーの生活もまたニューヨークの現実。それを白人監督が描いている。観てみたい。
 
●イントロデューシング・ドロシー・ダンドリッジ(TV映画)
1954年に「カルメン・ジョーンズ」で黒人として初のアカデミー主演女優賞候補となったドロシー・ダンドリッジの半生記。往年の大女優を演じるのは日本でもレブロンのCMでおなじみの元ミス・アメリカ、ハリー・ベリー。なお、彼女はこの作品のプロテューサーも兼任しているが、インタビューでは黒人女優の活躍の場があまりに少ないことを嘆いている。
 
●イン・トゥー・ディープ(監督:マイケル・ライマー)
一時期「ER」にも出ていた若手実力派オマー・エプスとラッパー:LLクールJが主演のシリアスな犯罪ドラマ。日本ではラッパーとしてのみ知られるLLクールJやクイーン・ラティファは、実はアメリカでは主演ドラマ枠を数年にわたって持ち続けているお茶の間の人気者。LLはフィットネス・ジム・インストラクターの爽やかナイス・ガイ、クイーン・ラティファは雑誌編集者というキャリア女性を演じている。もはやラッパー=ギャングスタではないのだ。
 
●ザ・ベスト・マン(監督:マルコム・リー)
大学時代の友人たちが仲間の結婚式で再会する。小説家やジャーナリストなど、それぞれがプロフェッショナルな仕事で成功しつつある彼らだが、そのうちの一人がかつて花嫁と関係があり、それが花婿にバレそうになって…。要はインテリ・アーバン・ブラック(バッピー)のライフスタイル・ムービー。「ソウル・フード」「ラヴ・ジョーンズ」のニア・ロング、私的いち押し:ハロルド・ペリノーが出演。(それにしてもドレッドロックだと役柄が限定されて不利だろうな)
 
●最優秀賞…ドライロングソー(監督:コリーン・スミス)
女性フォトグラファーが絶滅の危機に瀕している種“ヤング・ブラック・マン”について考察(!)する。死にゆく種族=若年黒人男性の生態とは? 観たい。監督はもちろん女性。
 
●観客賞…アン・インバイテッド・ゲスト(監督:ティモシー・ウェイン・フォルサム)
魅惑的な脱獄囚が、なんの疑いも抱いていない夫婦と一夜を共にするエロティック・スリラー。「クロッカーズ」の主役、「ソウル・フード」で末娘ニア・ロングの夫役を演じたスキンヘッドのメキ(メカイ)・ファイファー主演。
 
人種問題、セックス、有名人の伝記、コメディ、刑事もの、トレンディ・ドラマetc,etc…このフェスティバルをのぞいてみれば、あらゆるジャンルのブラック・ムービーに遭遇できた(ハズ)。そしてそこにはごく普通の庶民もいれば実業家もいる。刑事や脱獄囚もいるし、大学生や小説家やジャーナリストもいる。それぞれのキャラクターが各々まるで違うライフスタイルを持っている。まさにこれが現在のアメリカ黒人の現実である。アメリカの黒人は、その全員が「ミュージャン」か「スポーツ選手」、もしくは「犯罪者」ではないのである。
 
また、このフェスティバルは映画の上映だけではなく、毎日テーマ別の講演やワークショップも併催され、映画だけなら7ドル、講演やワークショップ込みでも25ドルというチケットの安さもとても魅力的。日本の映画館はなぜ1800円!?
 



おまけ・・・最近、わたしが観た(ブラック)ムービー
 
●旧聞ながら「ドクター・ドリトル」
「ナッティ・プロフェッサー」とこれで勢いを取り戻したエディ・マーフィ。まぁ、動物が喋る子供だましのコメディと言ってしまえばそれまでだけれど。でもハムスターの吹き替えをしているのが超人気コメディアンのクリス・ロック(クリス・タッカーじゃないので念のため)で、これが笑える。
ちなみに全米公開されたばかりのエディの新作「ボウフィンガー」は期待度大。スティーヴ・マーティンとのクドい取り合わせ、エディの黒縁眼鏡&歯列矯正ブレスだけでも既に笑える。
 
●これもやや旧聞ながら「ラッシュ・アワー」
うーん、典型的子供向けアクション。ブラック・キッズはカンフーものが本当に大好き。だから人気コメディアン:クリス・タッカーとジャッキー・チェンの取り合わせは彼らには魅力的なんだろう。しかしながらバディ・ムービーの魅力はなんといっても主役ふたりのかけあい。なのに残念ながらジャッキー・チェンには、口から先に生まれたようなクリス・タッカーに張り合えるだけの英語力がない。だから喋りはクリス、アクションはジャッキーという役割分担が出来てしまっている。おまけにクリスの喋りにも「フィフス・ディメンション」で見せたほどの冴えがない。
 
エンド・クレジットでNGシーンが流れるのだけれど、クリス・タッカーが中国語のセリフを何度もトチるのを見たジャッキー・チェンは本当に嬉しそう。「ほら、彼はたった3語の中国語も喋れないんだよ!」 これってジャッキー・チェンがいかに英語で苦労したかを物語ってて、同じノンネイティヴ・スピーカーとして私はしみじみホロリとさせられてしまいました。
 
それはそうと主役が黒人と中国人。クリス・タッカーの同僚刑事役のエリザベス・ペーニャはヒスパニック。つまりメイン・キャスト全員がマイノリティ。これってすごい。ただし、エリザベス・ペーニャってすごく良い女優なんだから、あんなつまらない役どころはないんじゃないの?
 
●これもちょっと古い「パーフェクト・カップル」
ジョン・トラボルタがクリントン大統領そっくりで話題となった政治裏ネタ暴露もの。華やかなアメリカ大統領選の裏で繰り広げられる丁々発止の、または際どく汚い闘いを、大統領候補のキャンペーン・スタッフである黒人青年(エイドリアン・レスター)の目を通して描いたストーリー。実は物語の進行上、このキャラクターが黒人である必然性はなく(黒人の多い米国南部ではスタッフにも黒人が必要ということなのかもしれないが)、私にとってはそこがポイント。白人が演じても支障のない役を、その俳優が優れている、もしくは映画にリアリティを加えるためという理由で黒人が演じる。これが本来の姿だと私は思う。現代アメリカを描いた映画にまったくマイノリティが出てこないのは、とても不自然なことだから。
 
ついでにこれは監督のシャレなのか、選挙事務所でいちもつを振り回して女性ボランティアをくどくという、相変わらずキレた役を振られているビリー・ボブ・ソーントンに、このエリート黒人青年ヘンリーに対して「(育ちが良くて一流大学出身の)お前は外見が黒いだけで、中身は白んぼだ。俺のほうがよっぽど黒人っぽいぜ」などと言わせている。
 
それはそうと、大統領を目指している知事の妻(要するにヒラリー・クリントン)を演じているのはエマ・トンプソン。さすがの堂々たる演じっぷりだけれど、後のファースト・レディをイギリス人女優が演じているのである。ハリウッドは英国人には寛容なのね。
 
とにかく、同じ大統領暴露ものでもロバート・デ・ニーロとダスティン・ホフマンによる「ワグ・ザ・ドッグ」と違って後味の悪さが残らないのはトラボルタ、エマ・トンプソン、キャシー・ベイツ(怪演)といった本来、陽性の俳優が揃っているから?見ごたえはあります。


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