ハーレム

2002/01/10

ポエトリー・リーディング
言葉/魂/リズム/肉体



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 ポエトリー・リーディングとは、詩人が自作の詩を朗読するアート形態。一般的に白人詩人が純粋に朗読のみを行なうのに対し、黒人やラティーノ詩人の場合はパーカッション演奏をバックに詠むことが多い。さらに詩人自らも声のトーンやボリュームを使い分け、またジェスチャーもつけたりと、演劇的要素もふんだんだ。


 1960〜70年代にはザ・ラスト・ポエッツ、ギル・スコット・ヘロンなどが政治的な詩をポエトリー・リーディングの形で盛んに発表した。その後、人気にかげりが見えた時期もあったものの、ヒップホップ世代がポエトリー・リーディングを始めたことにより、現在、再び盛り上がりを見せている。映画「スラム」や「ラブ・ジョーンズ」などで取り上げられているし、アメリカではモス・デフの司会によるテレビ番組も始まった。


 ハーレムにもポエトリー・リーディングを行なっているカフェやクラブが数件ある。そう言えば先に挙げた大物ザ・ラスト・ポエッツはハーレムを拠点にしていたし、ギル・スコット・ヘロンも『スモール・トーク・アット125th &レノックス』という、ハーレムをタイトルにしたアルバムを発表している。もちろん現在も若手のアーティストがハーレムではたくさん活動しており、彼らが自作の詩を引っ提げてステージに立つのが、139th St. & 8th Ave. にあるシュガー・シャック・カフェだ。


 ハーレムにしては洒落たインテリアを施したレストラン&バーの一角にスペースを作り、そこにパーカッション、アフリカの民族楽器である笛、ベースというシンプルな構成のミュージシャンがリラックスした様子で並んでいる。そこに詩人が代わる代わる登場しては、自作の詩を詠んでいく。


 アイ・ラブ・ユー!
 バラだってなんだって買ってやるよ!
 アイ・ラブ・ユー!
 お前の姉ちゃんがなにか文句を言ってきたら(*1)
 俺が言い返してやるよ!
 アイ・ラブ・ユー!
 お前になんか、もう会いたくないよ!(*2)
 アイ・ラブ・ユー!
 
 (*1)黒人女性が何かに対して文句をつける際の激しい態度を揶揄している
 (*2)愛情表現の裏返し



 と、「アイ・ラブ・ユー!」を大声で何十回も叫び続ける若い詩人は、FUBUのビビッドな黄色いシャツのせいか、詩人というよりはラッパーに見える。彼のあまりに率直でラウド(音の大きな、うるさい)な愛の告白には、司会の女性すら照れてしまった様子だ。


 背が高くスレンダーなドレッドロックの男性詩人は、マイクに向かうとまず両手を広げて素朴なアフリカン・メロディの歌を歌い、それからユーモラスな詩をアフリカ訛りの英語で詠み出した。客席からは時々クスクスと笑い声が起る。


 彼らはキャリアが長いと見えて、表現方法に長けている。このポエトリー・リーディングというアートは詩人としての文学的才能と、パフォーマーとしての資質の両方が要求されるのだ。


 後半に出てきた若いラティーノの女性詩人は、まだカレッジの学生だった。「ちょっと様子を見に来ただけで、今日詠むつもりはなかったんだけど…」とつぶやきながら詩を詠み始めた。


 それは、ドミニカからの移民として苦労し続けだった母親を謳ったものだった。自然の豊かなカリブ海の島国からニューヨークに移り住んで汚れた空気で体調を崩し、それでも自分を育てるために働き続けた母親への愛と感謝/大都会のプレッシャーに今にも押しつぶされそうで、みじめに見える母親への軽蔑。低賃金の単純労働者として一生を終るであろう母親とは違い、ニューヨークで育ち、貧しいながらも大学に通う彼女は、母親に対して複雑な感情を合わせ持っているのだ。


 彼女はまだリーディングを始めたばかりで、その朗読テクニックはアマチュア並みだった。原稿を片手に小さな声で、時にはつっかえながら、とつとつと語り続けるだけ。それでもニューヨークに暮らす移民一世と二世の感情のギャップをリアルに描いた詩は、その場にいた誰もの心をとらえ、大きな拍手を浴びた。

・・・・・

 リズムに乗せやすい英語という言語、マイノリティゆえの日々のプレッシャー、濃厚な愛情、そして人前で自己を表現したいという強烈な欲求。これらが渾然一体となって生まれたアート・フォーム、それがポエトリー・リーディングだ。



Sugar Shack Cafe
2611 Frederick Douglass Blvd. (@139th St.)
tel: (212)491-4422
ポエトリー・リーディングは水曜夜9時〜11時
テーブル・チャージ$6.00

※最寄り駅は地下鉄A,C,B,Dの135丁目
※タクシーの場合は行き先を「139th Street and 8th Avenue」と伝える



※2003年、店名が「Strivers Cafe & Lounge」に変更されたがイベント内容は変更無し

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