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2001/09/15

米国同時多発テロ事件 #02


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 テロ事件発生から4日が経ち週末を迎えたニューヨークは、それでもまだまだ深い悲しみと、なにかとても大きなものを無くした、という空虚さに包まれています。


 私の住むハーレム150丁目の角にも今日、大きなアメリカ国旗が壁に貼られ、たくさんのキャンドルが備えられていました。そこに暮らしていた誰かが帰らぬ人となったのです。(ウォール街では実に多くの黒人が働いています。新聞に大きく掲載された、爆発炎上するWTCから人々が逃げ惑う写真には、むしろ黒人/ラティーノの姿のほうが多いほどです)


 でも、こういったニューヨークの様子は日本のメディアが十分に報道しているようなので、ここでは別の側面から今回の出来事を考えてみたいと思います。

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 亡くなった数千もの人たちと、その家族や友人は本当に気の毒で、言葉も出ないほどです。特に残された遺族の気持ちは計り知れません。朝、いつもどおりに出掛けた最愛の人が、もう二度とは帰ってこないのです。さらに悪いことには、発見はしたものの判別不可能な遺体も多く、DNA鑑定を待たなくてはならない家族もいます。


 でも、ここで私が思うことは、メディアや一般の人々が盛んに口にしている「まったく罪もない何千人もの人々が殺された」という言葉です。まさにそのとおりで、犠牲者には罪はありませんでしたし、無差別のテロ行為は言語道断で許されるべきものではありません。でも、そもそもアメリカ合衆国(以下アメリカ)がアラブの過激派からテロを受け続けている理由はなんなのでしょうか? アメリカが、アラブと敵対しているイスラエルを強力に援助しているからです。ではアメリカがイスラエルを援助する理由は? それが自国の利益になるからです。では、そんなアメリカ政府を支持しているのは誰? そう、一般のアメリカ国民なのです。


 もちろん、犠牲者のなかにはこういったアメリカ政府の姿勢に反対していた人もいたことでしょう。また一般人のほとんどは、実は特に強い政治意識は持っていません。出来ることとと言えば選挙の際にきちんと投票に行くことくらいで、国家の外交方針に一般国民が関与することは事実上、ほとんどできません。それでも、アメリカ政府が行っていることにはアメリカ国民は責任があり、それが他国にどんな影響を及ぼしているかを考える義務もあるのではないでしょうか。


 私は、今回のテロの犠牲者を「アメリカがやったことのツケを、国民が払わされたんだから仕方ない」と切り捨てているわけでは決してありません。ただ「まったく罪のない何千人もの人々が殺された」と、国をあげて純真無垢の被害者を装い、「だから『報復』は当たり前だ」という短絡的・独善的な行為に出て欲しくないのです。


 では、ここまで深くこじれてしまった対アラブ問題をどう解決するんだ?と問われれば、私にも答えは判りませんし、とにもかくにも今回の事件の犯人は逮捕しなくてはなりませんが、過剰な「報復」は絶対に避けるべきです。


 なぜなら、アメリカの意地と軍事力を使えば、かなりの「報復」が可能でしょう。でも相手は大きなダメージを受ければ受けるほど、きっと数年後にまた、これまで以上に大規模で凄惨なテロ行為に出るでしょう。つまり終りのない泥試合となるのです。

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 一方、上記の問題とはまったく別の次元で、私自身の今回の事件への関わり方も、かなり考えさせられました。私はアメリカ永住者ですが日本国籍保持者ですから、つまり外国人です。「永住」と「外国人」という一見相反するステイタスを持つ私が、アメリカの屋台骨を揺るがす大事件に、精神的にどこまで関わるべきなのか、もしくは関われるのか。


 第2次世界大戦中、アメリカの日本人と日系人は収容所に入れさせられました。アメリカで生まれて米国市民権を持つ二世までもが強制入所させられたのです。今、アメリカにはアラブ系アメリカ人排斥のムードが漂っています。昔と同じことを、アメリカは今また行おうとしているのです。では、仮に明日、アメリカと日本の間でなにか問題が持ち上がったとしたら、私たち在米邦人はどうなるのでしょう?


 昨夜7時に、今回の犠牲者を悼み、アメリカの強さと、テロへの抗議を表すために多くの人がキャンドルを手に通りに出ました。犠牲者への追悼、テロ反対の気持ちはあってもアメリカの強さを表現する気には当然なれなかった私はキャンドルを持ちませんでした。ところが、一人の女性が道行く人々に小さな星条旗のシールを配っており、それを私にも手渡してくれたのです。急に気温が下って寒くなったその夜、小さなアメリカ国旗をセーターの袖に貼った私は実は、これで私もアメリカ人になったのかしらん…と錯覚したのでした。


B'way & Houston St.
閑散としたブロードウェイ&ハウストン・ストリート
から現場方面を眺める。09/14/01




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