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2001/08/14

シングル・マザーの系譜


 アメリカの黒人社会にはシングル・マザーの家庭がとても多い。離婚や死別によってシングル・マザーとなるケースもあるけれど、多くの黒人女性は結婚はせずに子供を生み、自分一人で子供を育てるのだ。

・・・・・

 ある日の午後、ハーレム148丁目の駅から地下鉄に乗った。ここは始発駅だから列車が出るまでは、いつもしばらく待つことになる。やがて発車を知らせるブザーがなると、それまでプラットフォームの公衆電話を使っていた少年が、ドアが閉まる寸前に飛び乗ってきた。始発駅でしかも昼間だから、車輌内には彼と私だけ。


 少年が私の真向かいに座った。
「君、どこに住んでるの?」案の定、話しかけてきた。白いTシャツに、バギーなジーンズ。そしてストッキング・キャップ。典型的な黒人少年のスタイル。でも正面からこちらを見て話すし、その態度も予想以上にきちんとしている。
「ここ」と答える。
「いや、だから、ニューヨークのどこ?」
「ここ。ハーレム。」
「えー? ハーレムに住んでるの? へえー。」


 それから彼は「僕はマイケル、君は?」と自己紹介をし、あれこれ話し始めた。やはり話し方は、かなり丁寧。アメリカでは英語という共通言語が使われてはいるけれど、属する経済階層によって話し方や言葉使いが相当に変わる。人種によってももちろん変わるし、特に黒人は特有の英語を話す。それでもその違いは、人種よりも、どちらかと言えば経済階層の差から来ているように思える。判りやすく言えば、上流階級と低所得者層ではまったく別の言語かと思うほどに違った話し方をするのだ。


 マイケルは、でも、そのきちんとした態度とは裏腹に、自分が何をしているのかは話したがらなかった。それはさておき、話題はやがて家庭のこととなった。マイケルが18歳だと言い、私が「それなら私の子供といってもいい歳ね」と冗談を言ったからだ。
「結婚? たとえ子供ができても、僕も結婚はしないなあ。だって、自由がなくなるだろう?」
「子供が僕に会いたがったら? そしたら、もちろん毎週末にだって会うよ。けれど彼女(子供の母親)は彼女のアパートに住んで、僕は僕のアパートに住む。それがお互いにいちばんラクじゃない。僕は僕でやることがあるし。」
「子供には父親が要るって? だから毎週会うって言っただろう? 僕もシングル・マザーの家庭で育ったし、それで問題ないよ。そういうものなんだから、子供もそれは受け入れなくちゃ。」
やがて列車がタイムズ・スクエアに着くと、マイケルは「じゃね、ミス」と礼儀正しく挨拶をして降りていった。

・・・・・

 8月12日付けのニューヨーク・タイムスに、アメリカでのシングル・マザーの、ここ5年間での減少傾向を伝える記事があった。それでも、そのグラフはまだまだ驚くべき数字を示している。


以下は、子供が一緒に暮らしている親の形態を、黒人と白人で比較したもの。

New York Times 2001/08/12

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シングル・マザー

結婚している両親

同棲している両親
または
シングル・ファーザー

両親不在
黒人

43.1%

38.9%

8.2%

9.2%
白人

12.0%

78.2%

6.8%

2.6%


 黒人の子供のうち、100人中43人がシングル・マザー家庭で育っている。また両親が共にいない、つまり親戚や里親に育てられていたり、施設に入っている子供が100人中9人。なお、結婚している両親/同棲中の両親に育てられている場合も、再婚/新しい恋人との同棲というパターンがあり、一緒に暮らしている母親・父親の両方が実の親という子供の割合は、さらに低いと思われる。


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