NYBCT

2001/08/04

ハーレムにクリントンがやってきた!
…についての、あれこれ。

 ハーレムに、とうとうクリントン前大統領がやってきた。ハーレムのメイン・ストリート125丁目に建つオフィス・ビル最上階に、大統領引退後の公式事務所を開いたのだ。その歓迎セレモニーが7月30日に、同じく125丁目のサイドウォーク・プラザで開かれた。


 サイドウォーク・プラザとは、ハーレムに唯一そびえ立つ高層ビル一階部分のオープン・スペース。だから招待状を持たない一般の人々もセレモニーを見物することができた。当日は月曜日ということもあって2,000人の人出にとどまったけれど、メディアは大勢詰めかけ、全米ネットのニュースとして流された。


 セレモニーのホストは、ハーレム出身の大物女優シシリー・タイソン。あの「ルーツ」に出演し、マイルス・デイビスと結婚していた時期もある。そのシシリーに紹介され、ゴスペル・グループや世界的に名を馳せるハーレム少年合唱団などが次々とステージに登場する。その合間にはクリントンと旧知の仲であり、彼をハーレムに招いた仕掛け人でもある敏腕下院議員のチャールズ・ランゲルを始め、ニューヨーク/ハーレムの主だった黒人政治家たちが歓迎のスピーチを行う。最後にはウィリアム・ジェファーソン・クリントン(クリントンの本名)本人が演壇に立ち、にこやかに、ジョークもたくさん交えながらのスピーチを披露した。
「私もアポロ劇場で演奏したいですね。」
「私はハーレムの良き住人になります!」
「私が来たことによって(家賃の高騰を招き)、小さな個人商店を追い出すようなことはしません!」
 観衆からは「ウィ・ラブ・ユー!」といった歓迎の声がたくさん巻き起こった。

・・・・・

 なぜ、ハーレムの人たちは、こんなにもビル・クリントンが好きなのだろう? 大統領時代にクリントンはアファーマティブ・アクションの続行(*1)、人種問題に関する国内討論(*2)、エンパワーメント・ゾーン設立(*3)など、マイノリティや低所得者層に焦点を当てた政策を少なからず打ち立てた。加えて、多くのスキャンダルを巻き起こしたものの、クリントンはなぜか人種を超えて、多くのアメリカ国民から愛され続けているのだ。


 とは言え、クリントンとハーレムとの関連性はほとんどゼロ。彼がハーレムに愛着を感じる理由はなにもない。そもそもクリントンは、同じニューヨークでもミッドタウンにオフィスを構えるつもりだったのだ。けれど家賃のあまりの高さに非難が巻き起こり、それでハーレムに場所を変更したという経緯がある。それでも人々が彼を歓迎する理由のひとつは、ハーレムでは信望厚いランゲル議員だろう。…クリントンをハーレムに連れてきたランゲル議員なら、きっとクリントンに、自分たちにとって何か良いことをさせるだろう。それに、とにもかくにも前大統領が自分の住む街に来るなんて、これは景気のいいことじゃないか…


 一方、ハーレムには「クリントンが来たからって、こんなに大騒ぎするほどのことじゃないよ」という人たちも多い。クリントンがどう言おうが、再開発(=白人資本)の流入によって地価や家賃は既に高騰している。クリントンの事務所開きが、それに拍車をかけることは間違いない。大手チェーン店がハーレムに店を開くということは、すなわち既存の個人商店が立ち退きを迫られるということだし、新しいマンションが建っても家賃が高く、地元の低所得層には手が届かない。セレモニーからの帰り道、会場でもらったクリントンのバッジを付けている人々を見て、「オレたちのことは、ほっといて欲しいもんだな!」とつぶやいた男性がいた。

・・・・・

 ところで、会場にはニュー・ブラック・パンサーも来ていた。オリジナルのブラック・パンサーは1960年代に“ブラック・パワー”のスローガンのもと、過激な態度と、それとは裏腹な、子供たちに無料の食事を配るなどの奉仕活動で人気の高かった黒人急進派団体だ。その過激な主張と、黒いベレー帽に黒い制服が当時の若者たちを大いに惹き付けたのだ。


 そのブラック・パンサーはいったん解散したものの、後にニュー・ブラック・パンサーという団体ができた。ところが、いまだに“白人はハーレムから出ていけ”など、黒人主義を全面に押し出して活動している彼らの支持率は極めて低い。公民権運動隆盛時の1960年代からは、アフリカン−アメリカンたちの生活や、ものの考え方もかなり変わっているのだ。


 今回のセレモニーにもニュー・ブラック・パンサーの党員は12、3人程度しか来ていなかった。それでも全員が黒いユニフォームに身を固め、一列に並んで「ハーレムは私たち(黒人)の街だ!」などとシュプレヒ・コールを繰り返していた。
 セレモニーの見物客のひとりが言った「あれ、なに?」
「ニュー・ブラック・パンサーだよ」と、別の見物人が答えた。
「あらまぁ。彼らったら、まだこんなことやってるのね、ハハハ」と、女性は一笑に付した。
 時代の流れに逆行しているニュー・ブラック・パンサーの“ブラック・パワー”とは、この程度のものなのである。


 ところが、会場に来ていたメディアのほとんど全てが、彼らをその報道でフィーチャーした。メディアとしては“歓迎されるクリントン”“友好的なハーレムの住人”といった平和的なシーンだけでは物足りず、黒いユニフォームで過激なメッセージを繰り返すニュー・ブラック・パンサーを、ドラマチックなアクセントとして映したのだ。


 これがメディア。どんなに小さな事象であれ、いったんメディアによって取り上げられると、視聴者はそれを大きなものだと解釈してしまう。実際、ニュースを見た多くの人が、ニュー・ブラック・パンサーは活発に運動し、影響力も大きいと誤解したことだろう。


 “黒人=怖い”“ハーレム=危険”といったイメージも、実はメディアによって作り上げられた部分が、かなり大きいのだ。

(*1)アファーマティブ・アクション・・・就職・進学の際にマイノリティに一定枠を与えるシステムに関して反対意見が起ったが、クリントンは続行を決めた。

(*2)人種問題に関する国内討論・・・あらゆる国内問題を地域の代表者が話しあうNational Dialogueに人種問題も含まれていた。

(*3)エンパワーメント・ゾーン・・・地域の経済発展を助けるために、個人商店にもローンを貸す政府団体。ハーレムにも支部がある。


ラッシュ・アワー2

 ジャッキー・チェン&クリス・タッカーの「ラッシュ・アワー2」、これは「2」がオリジナルよりも格段に面白い、珍しい例。ジャッキーの英語は上達し、クリスのアクションも上手くなった。なにより爆笑シーンの連続。これだけ笑えた映画は最近なかった。


 クリス・タッカーが、東洋人はみんな似ていて区別がつかないと言えば、ジャッキー・チェンはクリスを「アフリカ!」と呼ぶ。おまけに、「クラウチング・タイガー、ヒドゥン・ドラゴン」の、あのJen役のZhang Ziyiが、可愛い顔して、なんとも凄い悪役振り。ボス役のジョン・ローンは冴えないけれど。


 とにかく見て損したとは決して思わない上出来作品。ついでに「ラッシュ・アワー3」の舞台はニューヨークに決定済み!!

What's New?に戻る
ハーレムに戻る

ホーム