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2001/06/19

ハーレム135丁目の風景 #03
夏の初めの昼下がり

 6月も半ばの火曜日。午後3時。気温は80度(27℃)を軽く超えている。ハーレムは建物が低くて道幅が広いせいで、マンハッタンのほかの地区とは違って青い空がよく見える。


 ここはハーレム135丁目とレノックス・アベニューの交差点。地下鉄の駅を出た角には、この辺りでは数少ない高層ビルであるハーレム・ホスピタルが建っている。白と青の建材で建てられた病院の入り口には大きな彫刻モニュメントが掲げられていて、その下を、写真付きのIDカードを首から下げたドクターやナースたちが、遅いランチに出入りしている。


 病院から通りをはさんで向かい側には、煉瓦作りのショーンバーグ黒人資料図書館が建っていて、外壁にはニューヨークゆかりの黒人著名人100人の写真が貼ってある。デューク・エリントン、マイルス・デイビス、スパイク・リー、マヤ・アンジェルー、ウーピー・ゴールドバーグ、コリン・パウエル国務長官 …。こんな有名人の肖像も、近所の住人にとっては見慣れたもの。立ち止まって眺めているのは観光客だけ。


 南東の角には、ハーレム・ホスピタルに勤める医者や、弁護士が多く住むことで知られるレノックス・テラスと呼ばれる茶色いアパートメント・ビル群。それを背に銀行や商店、ソウルフードのデリが連なっている。ハーレムは車道と同様に舗道の幅も広くて、ここでも商店と向かい合わせに小さな屋台がいくつも出ているけれど、それでも子供が買い物客の間をスクーター(キックボード)でゆうゆうと走り抜けることができるほどに余裕がある。


 日除けにビーチ・パラソルを広げた屋台では、いろいろな物を売っている。新聞、エキゾチックな香りのオイル、帽子やドゥラグ(*1)、黒人アーティストのペイント、アフリカン・プリントのスカート …。もう夏休みだから店番を手伝っている子供もいるけれど、時々は屋台を抜け出して、マンゴ・フレイバーのアイシー(*2)を買いに走っていく。ホットドッグのワゴンには、パトロール途中の警官もやってくる。


 そんな通りを散歩がてらに歩いていると、知り合いに出会う。もう老人と言っても良いはずの年齢なのに、サングラスと昔懐かしいフェドラと呼ばれる帽子でお洒落にキメている。「やあ、どう? 元気? そうか、元気か、グッド!」と言って笑顔ですれ違って行く。


 ハーレム135丁目とレノックス・アベニューの交差点。普通の人たちが、普通に暮らす街。


*1 … 黒人男性が被るストッキングのような布でできたキャップで、首の部分まで布がたれているタイプ。
*2 … 屋台で売られるアイスクリームの一種。小さな紙コップに入っていて50セント。

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