2001/03/16
ハーレムって危険ですか?
ハーレムは実のところ、どれぐらい危険なのだろう。
NYPD(ニューヨーク市警)のホームページに行き、犯罪発生件数を見てみた。まずニューヨーク市はマンハッタン/ブルックリン/ブロンクス/クイーンズ/スタテン・アイランドの5区から成り立っている。どの区もあらゆる人種が大小のコミュニティを作っており、通り1本で雰囲気がガラリと変わる。例えばハーレムは、マンハッタン北部に位置するアフリカン−アメリカン地区だけれど、東側はプエルト・リカンが住むスパニッシュ・ハーレム、西側とさらに北部はドミニカン地区のワシントン・ハイツ。だけれど同じ西側モーニングサイド・ハイツにはコロンビア大学があり、そこはもちろん学生街となっているし、アッパーウエストという高級住宅地とも比較的近い。だから5区別の犯罪発生件数を見ても役には立たないので、警察署の管轄ごとのリストを基に、抜粋版を作ってみた。
年間犯罪発生件数(2000年) 地区名 殺人 レイプ 強盗 Harlem
(マンハッタン)
(アフリカン−アメリカン地区)22 76 736 East Harlem
(マンハッタン)
(プエルトリカン地区)19 42 941 Washington Heights
(マンハッタン)
(ドミニカン地区)21 41 818 Soundview
(サウス・ブロンクス)
(ヒスパニック地区)16 62 721 East New York
(ブルックリン)
(アフリカン−アメリカン地区)40 97 1,160 Flushing
(クイーンズ)
(白人・アジア系・ヒスパニック混合地区)12 16 432 Chelsea
(マンハッタン)
(主に白人地区)2 11 193 Times Square近辺
(マンハッタン)
(商業地区)7 13 626 全市合計671 2,069 32,223 ※各エリアで人口に差があり、単に犯罪発生件数を見るだけでは、実は偏りが生じる場合もある
問題は、この表をどう解釈するか。マンハッタンのチェルシーやミッドタウン(タイムズ・スクエア近辺)に比べると、確かに「ハーレムは危ない」ということになる。チェルシーでは年間2人しか殺されていないのにハーレムでは22人。これは事実。ではハーレムのいったい何処で、誰が殺されているのか? 125丁目や135丁目などの大通りで人が撃ち殺されたという話は聞かない。つまり治安が悪いとされているエリアでも駅前の繁華街など、人通りの多いところは通常は大丈夫ということ。問題は廃虚の並ぶ裏通りにある。また殺されているのは、ドラッグ売買など犯罪に関わっている地元の人間がほとんど。
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けれど犯罪人ではなくとも、運悪く流れ弾に当たって亡くなる通行人、貧しい母親に捨てられて命を落とす赤ちゃん、昼間ですら一瞬の隙をついてレイプされる女性たちがいる。これこそがまさに貧困地区に暮らす(生まれてくる)ことのリスクだろう。まっとうに暮らしていても犯罪に巻き込まれ、いともたやすく被害者となってしまう。
ニューヨークで犯罪発生率の高い地域とは、すなわちマイノリティが暮らす低所得地域のこと。貧困が犯罪を招くことは説明するまでもない。けれどもニューヨークの治安は、ひと昔前に比べると格段に良くなっている。1993年と比較すると、ハーレムでの殺人件数が91→22、全市合計だと1,927→671と大きな変化を見せている。殺人件数で治安を語らなければならないこと自体が、ニューヨークという都市の危険性を物語ってはいるけれど、今、ハーレムは再開発が進みつつある。これからもアパートの新築や改装が続き、大手企業の参入も続くだろう。地域が活性化して失業率が減り、人々の生活が安定してくれば、犯罪はきっと減る。大手チェーン店や白人の流入がハーレムならではのフレイバ−を損なうという意見もあるけれど、人々や子供が安全に暮らせることこそが、もっとも重要なことなのだと思う。