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2001/02/04

ニューヨークのラテン・パワー
〜お腹の赤ちゃんもメレンゲで踊る〜


 アメリカには“ベイビー・シャワー”という習慣がある。妊娠している女性の出産が間近かになったら友人や同僚が小さなパーティを開き、赤ちゃんの衣服や紙おむつ、おもちゃなどをプレゼントする。女性が母親になることを祝うと共に、物入りな育児用品を贈って経済的にもヘルプするという理にかなった習慣だ。普通は本人の自宅や勤め先のオフィスで、お腹の大きくなった“もうすぐマミー”を囲み、こじんまりと開かれる。

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 私と夫は、知人であるジョニーのガールフレンドのベイビー・シャワーに招かれた。可愛い赤ちゃんのイラストが描かれた招待状が届き、それに拠ると場所はレンタルのパーティ会場。… なんだかベイビー・シャワーにしては大掛かりな気配。なぜなら、そう、ジョニーはパーティ好きで知られるラティーノなのだ。


 ラティーノ、もしくはヒスパニックとは、カリブ海及び中南米のスペイン語圏の国/地域の出身者のことを指す。例えば西海岸ならメキシコ人が多いけれど、ニューヨークにはカリブ海のプエルト・リコとドミニカ共和国出身者が多い。ジョニーもドミニカンである。



 昔、これらカリブ海の島々には、スペイン人がアフリカからの奴隷を連れて入植した。その結果としてスペイン人、アフリカ人、島に最初から住んでいたインディオが混じり合い、独特のヒスパニック文化が出来上がった。ルックスも多くの人は“スペイン+黒人=ラティーノ”な独自の顔つきだけれど、人によって黒人の特徴が強く出たり、白人の特徴が強く出たりと様々。例えばジェニファ・ロペス(プエルト・リコ)、グロリア・エステファン(キューバ)、サミー・ソーサ(ドミニカ共和国)… 顔つきはバラバラだけれど、みんなスペイン語を話すラティーノだ。


 ちなみに同じカリブ海の島国でも、ジャマイカは英国領だったので英語、ドミニカ共和国と同じ島の東半分を占めているハイチは仏領だったのでフランス語を話し、従ってこれらの国の出身者は、プエルトリカンやドミニカンと同じく“カリビアン”であっても“ラティーノ”ではない。歴史の作り上げた複雑な区分だ。

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 ニューヨークでは近年、カリブ海からの移民が爆発的に増え、ラティーノ人口がアフリカン−アメリカン人口をわずかではあるけれど、上回ってしまった。ハーレムも東側は昔からプエルトリカンの住むスパニッシュ・ハーレムとして知られているけれど、今や西側もラティーノ地区だし、北部はワシントン・ハイツ、インウッドと呼ばれるドミニカン・コミュニティとなっている。ニューヨーク生まれの二世以降は、もちろん英語も話すけれど、コミュニティの中ではスペイン語オンリーだし、地下鉄内のポスターなども最近は英語とスペイン語を併記したものが増えている。


 ジョニーもワシントン・ハイツに住む生粋のドミニカンだ。30代半ば。ブロンクスやハーレムのコンピュータ・スクールでインストラクターをしている。オフィス内ネットワーク構築などの知識も相当にあるのでコンサルタント的な仕事もしているのだけれど、職場にすら黒のスーツ&タイに紫のシャツ、ゴールドのブレスレットといった出立ちで現れるあたりは、さすがドミニカン。



 そのジョニーのガールフレンド、イサベラの出産があと1ヶ月と迫り、ジョニーはラティーノ流の盛大なベイビー・シャワーを開いたのだ。(ジョニーとイサベラは結婚していない) パーティ会場を借り、赤ちゃんを祝うイベントらしく、パステル・カラーの風船やモールで飾り付け、親族と友人知人一同、なんと200人を招待。ステージ上のテーブルには可愛いデコレーション・ケーキがいくつも置かれ、その横には妊婦が座るための、レースとリボンと花で盛大に飾られた大きな白い籐の椅子。その脇に招待客がつぎつぎにプレゼントを置いてゆく。きれいにラッピングされているので中身はわからないけれど、どの包みも、とにかく大きい。贈り物は大きくなくてはいけないのだ。


 そして床に積み上げられたスピーカーから流れているのは、もちろん大音量のメレンゲ。会話も出来ないほどのボリュームのノンストップ・メレンゲで、よちよち歩きの子供からお年寄りまでが、夜を徹して踊り続けるのだ。



 ちなみにパーティは夜8時からということだったのだけれど、本格的に始まったのは10時頃で、食事が出されたのが真夜中の12時。疲れ果てた私たちは早々に失礼したのだけれど、お開きは、なんと午前2時だったとのこと。


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