ハーレム･ソウルフード･シャッフル（1）

2000/10/25

ハーレム･ソウルフード･シャッフル＃01

　ハーレムにはかなりの数のソウルフード・レストランがある。シルヴィアズのように世界中のガイドブックで紹介され、連日、観光客で満席な有名どころから、ハーレマイト（ハーレムの地元住民）しか知らない、ごく小さな店まで。

●22 West －かつてマルコムＸがハーレムに滞在した際には、必ずここで食事をし、また自伝のためのインタビューを「ルーツ」の著者アレックス・ヘイリーから受けた場所でもあるという老舗レストラン。今でもいちばん奥の席にはマルコムＸの大きな肖像画が掛けられている。ここで友人はＢＢＱリブ（バーベキュー・スペアリブ）をオーダー。好みのものが２種選べるサイド・ディッシュは、マカロニ＆チーズとストリング・ビーンズ（さやいんげん豆）。私はスマザード・チキン（マイルドなソースをからめたフライド・チキン）に、サイドはカラード・グリーンズ（菜っ葉の炒め煮）とキャンディド・ヤム（ヤムイモの甘露煮）。コークにはレモンを入れてと頼んだところ、気の良さそうなウエイトレスは「レモン？　もちろんＯＫよ！」とテンポも良い。ところが、チキンだけが先に来て、コークのことはすっかり忘れている。…あ、とウエイトレスを見上げたところ、彼女も急に思い出したらしく、「コークよね？　今すぐ持ってくるから」と丸顔に満面に笑みを浮かべる。そして運ばれてきたコークには、もちろんレモンは入っていない。彼女は相変わらずニコニコしている。ちなみに、テーブルから溢れんばかりだった大量のソウルフードを、アフリカン－アメリカンの友人はものの数分で平らげた。

●Sugar Shack －ハーレムの中の高級住宅エリア、シュガー・ヒルにある比較的新しいレストラン。味とボリュームこそが全て、という他のソウフード・レストランと違い、ここはお洒落な若い層を狙った店でインテリアにも凝っているし、夜にはポエトリー・リーディングのライヴもあり、連日なかなかの人気。ある日の夕方、ディナーを食べに出掛けると、不思議なことに空いている。何かおかしいと思いながらも、とにかく飲み物だけを先に注文したところ、それを運んできたスタイリッシュなウエイターが、「謝らなくちゃならないことがあるんだよ」と、いきなり私たちのテーブルに座る。「実はね、今夜は食べ物がないんだ」…はぁ？な私たちに、彼は説明を続ける。「いやぁ、実はさっきシェフから電話が掛かってきて、彼、道に迷ってて来れないんだよね、今日は」　もう言ってることの訳が、さっぱり分からないけれど、これで通ってしまうところが、さすがハーレム。

●M & G Diner －老舗ジャズクラブShowmansの２件先にある小さなレストラン。黄色いネオン看板、カウンターとわずかなテーブルとジュークボックス。まるで西部の田舎町にでも来たかと錯覚させる古びた内装。ウエイトレスの愛想の無さはハーレム随一ながら、料理は美味しく、いつも混んでいる。他のソウルフード・レストランでもなかなかお目にかかれないチトリンズ（豚の臓物煮込み）やレバー＆オニオンまで置いてあるけれど、その日はあっさりグリッツ（白とうもろこしの粥）を頼む。さんざん待たせた揚げ句に遂にオーダーを取りに来たブレイズ頭のウエイトレスが宣告する。「それは朝食メニューよ」。　でもメニューの“ブレックファスト”じゃなくて“その他”の項目に載ってるけど … と食い下がると、ウエイトレスは「ふぅむん」と、いったん鼻腔を広げて深呼吸をしてから、「グリッツとは、そもそもアフリカン－アメリカンの食べ物ではなかった。その昔インディアンが朝食としてアフリカン－アメリカンに教えてくれた食べ物で、だから朝しか出してないのよ」と、いきなりの一気なレクチャー。「…… 教えてくれて、ありがとう」と、なぜか気弱に礼を言い、おずおずと注文をミートローフに変更。

●Pan Pan －大通りの角、地下鉄駅の出口そばにあるカウンターだけのソウルフード大衆食堂。クラブ・ケーキ（カニ・コロッケ）やコーン・ブレッド（とうもろこし粉を溶き、型に流し込んで焼くパン）が美味しい店で、安い値段で手早く食べられるのが繁盛の理由。ある日、ラムレーズン・アイスクリームを頼んだ。1.25ドルで、マンハッタンの1.5倍はありそうな山盛り。ここもウエイトレスは無愛想だけれど、おじさん店員は笑顔。「ラムレーズンが好きなの？　じゃ、これからは君のために、いつもこれを取っておくよ」。彼らは歯の浮くようなセリフも軽々と言ってのける。

ハーレム・ソウルフード・シャッフル（２）は、いつかそのうち。

以上のレストランは　ハーレム・レストラン・マップ　に詳細があります。

－お知らせ－

12月に東京のライブハウス、チキン・ジョージで「ソウルフード・ナイト」という、ソウルフード食べ放題のイベントが開かれます。ソウルフードとは、アメリカ南部発祥の黒人料理です。コーンブレッド、キャンディドヤム、カラードグリーンズ、フライドチキン、レモネード … 素朴で美味しくてボリュームたっぷり、一度食べたら忘れられない料理です。

今回の「ソウルフード・ナイト」は、日本ではなかなか食べることの出来ない本場のソウルフードを味わえる貴重なチャンスであり、だから日本在住のアフリカン－アメリカンたちも多数参加します。これは在日何十年というアフリカン－アメリカン社長が経営する“アジアネットInc.”というインターネット・プロバイダー会社が主催するもので、今年で２回目です。以下のURLに詳細と、去年のイベントのスナップショットがあり、予約も出来ます。http://www.asianet.net/~jcon/soulfood.html

●Soul Food Night
12/2(土)7pm～
￥4800食べ放題・飲み放題
チキンジョージ青砥店
葛飾区青砥6-1-13　武藤商事ビル1Ｆ（京成電鉄青砥駅）
（03）3690-3038

●問合せ先：アジアネットInc.
jconnect@asianet.net（担当者は日本人）

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