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2000/09/16

ブルックリンを歩く
カリビアン、ユダヤ人、アフリカン、中近東…


ニューヨークのブルックリンにはありとあらゆる人々が住んでいる。一般的にはカリビアンやジューイッシュ(ユダヤ人)が多いとされているけれど、他にも数えきれないほどの民族コミュニティがある。


とある日曜日。所用でブルックリンに出掛けた。地下鉄2/3のバーゲン・ストリートで降りる。これといって何の特徴もない街並み。そそくさと用事を済ませ、とりあえずは一駅歩いてアトランティック・アベニューに出る。ここにはモール(ショッピング・センター)があり、スーパーマーケットのパス・マーク、GAPの廉価版とも言うべきカジュアル・ブティック・チェーンのオールド・ネイヴィー、家電製品のサーキット・シティ、スターンズ・デパートなどが入っている。客層は圧倒的に黒人が多く、次いでラティーノ、そして白人。


そのまま西に向かって歩く。アトランティック・アベニューの4thアベニューからスミス・ストリート間はアンティーク・ディストリクトと呼ばれ、アンティーク家具屋が集中している。ロココ調のネコ脚ドレッサーからモダン・ファニチャーまで、いろいろ揃っていて見るだけでも十分に楽しい。最近はソーホーの家賃高騰に耐え兼ねたアーティストたちがブルックリンに移りつつあり、ここもアンティーク家具屋の間にカフェや、アフリカン−アメリカン・グッズの店などがちょこちょこと出来ている。ちょっとお洒落なジャマイカン・レストラン
Brawta(347 Atlantic Ave. @ Hoyt St. Tel: 718-855-5515)ではドレッドロックスの若者たちが楽しげにテーブルを囲んでいた。メニューを見れば価格はマンハッタン並み。カリビアンにも中流階層がいることの証明だ。さらに、それらの店に挟まれてイスラムの宗教用品や食料品屋がチラホラとある。このままアトランティック・アベニューを歩けば、コート・ストリートから西はニューヨーク最大の中近東コミュニティとなるのだ。


そこから、いったん北に上がってフルトン・ストリートへと出る。フルトン・モールと呼ばれる賑やかな商店街だ。カジュアル・ブティックや家電製品、携帯電話の店が並ぶ。(しかし黒人街の典型として、ここにも本屋はない) 客層はやはり黒人とラティーノ主体で、白人が若干。疲れたのでショッピング・ビルの地下にあるフードコート(ファストフード店の集合体)でひと休み。タコベルのカウンター内で愛想もなくタコス・ピザなるものを売っているのはアジア系のマネージャーと、黒人ティーンエイジャーのバイト嬢。ワゴンで小物を売っている親子はインド人かパキスタン人。フルトン・モールには、それでも多少の白人が歩いていたのに、このフードコートには白人の姿は、何故かまったく無い。どこにでもあるファストフード店が幾つか入っているだけで、特に黒人向けに作ってあるわけでもないのに、いったん“黒人の行く場所”となると、白人には入りづらくなるのだ。これは差別ではなく、“区別”もしくは“棲み分け”であり、考えようによっては差別よりも頑強で無くしにくい現象かもしれない。


再びフルトン・ストリートに出、東に向かって歩く。やがてモールは終り、ハウジング・コンプレックス(集合住宅)が現れる。いかにも新しく、清潔なレンガ造り2階建ての家がかなりの量で並んでいる。住人はミドルクラスの黒人のようだ。きちんとヘルメットを被って自転車に乗った小学生くらいの子供と、その両親がちょうど帰宅し、草花の植えられた芝生の前庭に自転車を乗り入れているところを見た。マンハッタンの黒人エリアでは見かけない、落ち着いた中流家庭の光景。


さらに歩き続けるとハウジング・コンプレックスは途切れ、ややさびれた感じの店が立ち並ぶ地域へと入った。ニューヨークはどこでも、通り一本で風景がガラリと変る。そのままさらに東に向かうと、やがてまた徐々に賑やかな街並みへと変ってくる。ノストランド・ストリート以東はベッドフォード・スタイブザントと呼ばれる地区で、カリビアンが多い。ぎっしり連なる様々な店の中には、カリビアン料理に欠かせない魚屋もある。その店の前の舗道でインセンス(お香)やオイルの露店を出しているのはドレッドロックスの男たち。だけど通行人の中にはアフリカ人も多く、アフリカン・ガーブ(アフリカ特有のカラフルでゆったりしたドレスと、共布で出来たラップ(頭に巻く布))も洋品店の軒先に釣られている。


ブルックリンにはマンハッタンには見られない凝ったデザインの古い建物がたくさんある。ここでも通りに面した一階店舗部分には看板が掛けらているので、一見それとは分からないものの、ふと通り全体に目をやると、雑多な看板の上からは変ったデザインの屋根やら、そもそもは教会だったのだろう、石造りの十字架などがのぞいている。それに加えてカリビアン、アフリカン、ラティーノが混在する雑多な通行人と、彼らが売る安物商品の山。なんだかニューヨークではなく、どこか遠くの異国に来たような錯覚。


・・・・・

これ以外にもブルックリンには、観光地化されたマンハッタンのリトル・イタリーに比べ、これぞ本物と言えるイタリアン街ベンソンハースト、ジューイッシュの中でもユダヤ教の戒律を厳格に守るハシディムと呼ばれる人々が住むボロウ・パーク、ロシア人地区のブライトン・ビーチを始め、数々のエスニック・コミュニティが存在する。それらは通り一本で他のコミュニティと接しているにもかかわらず、その文化と伝統を頑なに守り続けている。

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