NYBCT

2000/07/16

ハーレム135丁目の風景 #02
夏の舗道にて

ハーレムの舗道はとても幅が広い。マンハッタンの他の地区の2倍は優にある。そのゆったりと広い舗道を夏の夕方に歩いてみると、そこにはいろいろなハーレマイト(ハーレムの住人)たちが居る。

*****

右手に食料品満載のスーパーの袋を下げ、左手で、遊びたくてそわそわしている小さな子供の手を引っ張っている仕事帰りの女の人たちが足早に過ぎてゆく。ハーレムにはシングルマザーの家庭が多い。結婚はせずに10代や20代前半で子供を産む女性が多いので、ほとんどの母親は若い。女性たちは朝、託児所に子供を預けて出勤し、仕事を終えたらまた託児所に来て子供を引き取り、買い物を済ませてから自宅に帰る。食事を作って子供に食べさせたら、シャワーを浴びさせ、寝かせつける。毎日忙しい彼女たちは、でも、とてもお洒落だ。決して高級品ではないし、やや派手めの傾向はあるにしろ、気を使った身なりをしているし、ヘアスタイルとマニキュアにも凝りに凝る。そしてボーイフレンドも、何故か、ちゃんと確保しているのだ。

*****

そんな母親たちの忙しさを気にもせず、子供たちは既に夏休み真っ盛り。ニューヨークでは6月末から9月の第一週にかけて70日間の夏休みがある。どの子も既に日焼けして、さらに濃いブラウンになっている。黒人も日焼けするのだ。首周りと二の腕にはラインが出来ているし、ライト・スキン(色の薄い)の子供たちは皮も剥けている。

そして子供たちも、もちろんお洒落だ。特に男の子。オーバー・サイズのカラフルなシャツは前ボタンを止めず、下に着ている白いランニング・シャツを見せる。短パンは必ずバギーで、スニーカーはもちろんナイキ。5歳にして一人前のヒップホップ・ファッション。その出で立ちで自宅アパートメント前の舗道に出、バスケット・ボールに熱中する。ブレイドを揺らせた女の子たちはダブルダッチ(2本仕立ての縄跳び)。一息入れたくなったら、50セントを握ってアイシー(シャーベット状の氷菓)の屋台へと飛んでいく。

*****

年配の男性たちは舗道に椅子とテーブルを持ち出してドミノ・ゲームかトランプ。隠退済みか、もしくは失業中の彼らには、他にこれといってする事もない。4人のプレイヤーを何人もの見物人が取り巻き、ゲームの進行をあれこれとコメント付きで見守る。それをアパートメントの窓から眺める老人。頬杖をついているヒジが痛むのか、窓枠には折り畳んだタオルが敷かれている。その老人の目の前を、ゆっくりと横切ってゆく斑模様の猫。午後8時。夏時間だから、空はまだまだ明るい。9時まではnight ではなく evening と呼ばれる。

*****

人々は舗道で頻繁に挨拶を交わす。近所に住む人のことは大抵知っているのだ。子供でも顔見知りの大人を見かけたら、ごく当たり前に“Hi.”と言う。どこか昔懐かしいハーレム、夏の風景。

What's New?に戻る
ハーレムに戻る

ホーム