NYBCT

2000/07/02

マジック・ジョンソン・シアター
ハーレムにオープン!

6月30日金曜日、ハーレムのメイン・ストリート125丁目に9スクリーンから成るシネマ・コンプレックス“マジック・ジョンソン・シアター”がオープンした。これはハーレム再開発の象徴として建設された大型テナント・ビル“ハーレムU.S.A.”の大部分を占める大型映画館だ。


当日の朝10時から行われた関係者向けオープニング・イベントに参加した。1ブロックを丸ごと占めているハーレムU.S.A.の南側124丁目を遮断してステージと招待者席が設けられており、眩しい陽射しが降り注ぐなか、子供たちによるブラスバンドが賑々しく演奏を始めた。次いでハーレム・ボーイズ・クワイアによる合唱が1曲あり、やがて壇上に関係者たちが並んだ。もちろんシアター・オーナーであるマジック・ジョンソンもその中にいる。思っていたより小柄に見えるのは気のせいか? 招待者席の背後には一般の人たちが詰めかけており、「マジック!!」「マジック!!」と声が飛び交う。


直にUMEZ(アッパー・マンハッタン・エンパワーメント・ゾーン/ハーレムとブロンクスの経済発展を援助するための政府機関)代表、C.ヴァージニア・フィールド・マンハッタン区長(初の黒人女性区長)、映画館支配人などが次々とスピーチを始めた。本来ならジュリアーニ・ニューヨーク市長も参加するところなのだろうけれど、マイノリティ・コミュニティと折り合いの悪い彼は欠席し、代理人がスピーチを代読。

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地理的にはセントラル・パーク以北をハーレムと呼び、ハーレムの更に北、つまりマンハッタン最北端部はワシントン・ハイツ、イン・ウッドと呼ばれるドミニカ系のコミュニティとなっている。これら3地区を総称してアップタウンと言い、地区全体で、なんとシアトルを上回る人口を有している。しかしながら、これまでこの地区に映画館は2館しかなく、しかも、どちらもブロードウェイ沿いの147th St. と181th St. で、セントラル・ハーレムではない。従ってほとんどの住人は映画を楽しむためにアッパー・ウエストかダウンタウンまで出掛けざるを得ず、これは映画がとてもポピュラーな娯楽であるアメリカ、特にニューヨークでは尋常なことではない。壇上の一人が言った。「シアトルに映画館が、たった2館しかないなんて、想像できますか?」


しかし、これが今までハーレムが置かれてきた環境なのだ。人口は多くても平均所得が低いため、全米規模の大型チェーン店や企業は利潤をあげることは出来ないと言って進出を拒んできた。稀にハーレムにビジネス・チャンスを見い出す企業があっても、今度は治安の悪さを心配して、やはり出店を取り止める。必要以上に治安の悪さが取沙汰される理由は、ほとんどの企業の経営陣が白人だということに、ほかならない。(唯一、早くからハーレム出店をためらわなかった業種はマクドナルド、KFCなどのファストフード)

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ようやく最後にマジック・アーヴィング・ジョンソンが演壇に立った。「私はかつてバスケットボールをしていた者です」…スーツ姿のマジックは今や、すっかり一流のビジネスマンで、ジョークも淀みがない。原稿は持っておらず、客席を見て話し続ける。「私もこのようなコミュニティ(貧しい黒人地区という意味。マジックはハーレム出身ではない)の出身です。だから、あなたたちが何を欲しがっているのか、何を必要としているのかが、私には判ります」…マジックのスピーチの内容は“コミュニティ(地域)”に終始した。


参加者のスタンディング・オベイションと、背後の一般席からの「ウィ・ラブ・ユー、マジック!!」の声に見送られてマジック・アーヴィング・ジョンソンはステージを後にした。もっとも参加者席脇に立っていたボーイズ・クワイヤの子供たちは、ただただキョトンとするばかり。マジックがHIVポジティブを発表してNBAを引退したのは1991年。そう、15才以下の子供たちにマジック・ジョンソンの記憶はないのだ。


式典は終り、オープニング上映の「シャフト」を観るために、招待客は館内へと案内された。広々としたロビーの壁には、ハーレムの街に立つマジックと子供たちが大きく描かれている。どこまでも“コミュニティ(地域)”にこだわった仕様だ。しかしスクリーニング・ルームに入ると、イスは快適で、音響もクリア。これがハーレムとは信じられなかった。


エスカレーターで上の階へと上るあいだ、ガラス張りの壁からハーレムを見渡せる。正面は125丁目に面しており、アポロ・シアターもすぐ側に見える。が、折り返しのエスカレーターに乗って124丁目側を眺めた時、そこには朽ち果てて放棄され、廃虚となったビルがあった。ハーレムの再開発は、まだまだ始まったばかりなのだ。


Magic Johnson Theaters
Harlem U.S.A.
2309 Frederick Douglass Blvd.(入り口は124th St.)
(212)665-8733
地下鉄A,E,B,D または 2,3の125th St.下車
地図(125丁目ショッピングマップ)


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