NYBCT

2000/06/28

目には見えないけれど、確実に存在する
秘密の“黒人クラブ”



黒人の、特に男性たちは、まるでその全員が同じクラブに属しているメンバーのようだ。


例えばミッドタウンやアッパー・イースト、アッパー・ウエストなどで買い物をしてみれば判る。これらのエリアには様々な店舗やホテル、オフィス・ビルがあり、そういった施設のセキュリティ・ガード(警備員)は、その多くが黒人だ。ブティックなどでも入り口にネイビー・ブルーの制服を着た黒人セキュリティが立っている。普段は淡々と客の出入りと、万引きなどを見張っている彼らだけれど、黒人男性が客として入っていくと、警備員はその男性客と目を合わせて頷きあうか、もしくは "What's up?" "How're you doin'?" などと軽く声を掛ける。もちろん、お互い面識はない。


これは他の人種では有り得ないことであり、まさに或る種の秘密クラブか何かのようである。さらに、その店が高級だったり、黒人男性客の身なりが良い場合には、警備員の態度に「こんな店に出入り出来るとは大したものだな、ブラザー」といったニュアンスが加わる。警備の仕事は低学歴の黒人のあいだでは最もポピュラーなもののひとつであり、彼らにとって、仕立ての良いスーツを着て高級な店に出入りする黒人客は“格上のクラブ・メンバー”なのである。とは言え“格上メンバー”の中には、学歴、社会的ステイタス共に高い自分と、高卒もしくは高校ドロップアウトの警備員との間になんの共通項も見い出さず、ただ儀礼的に挨拶を返すだけの者もいるけれど。


しかし、そういったプライドの高い“格上メンバー”も、やはり同じく“黒人クラブ”のメンバーである。例えば彼らが白人の多い企業のオフィスや、やはり白人ドクターの多い病院などで、彼らと同じように高等教育を受けたプロフェッショナルな黒人に出会えば、そこでは簡潔ながらも親近感に満ちた挨拶が交わされるのである。


*****


アメリカで黒人として暮らすことは、まだまだ楽ではない。マクドナルドの店員から一流企業勤務まで、その職業や所得にかかわらず、日々の生活の様々な場面で、ありとあらゆる障害に遭遇する。その具体例を説明することは今回の主旨ではないので省くけれど、そういった環境で暮らしていかなければならない彼ら黒人には一種独特の連帯感があり、特に男性にそれが顕著なのである。


では何故、特に男性なのかと言えば、それは人種を超えて男性が持っている自己顕示欲のためだ。男であるからには表に立ちたい、能力を誇示したい、または家族や社会を支える柱となりたいという欲求に黒人白人の区別はない。しかしながら白人優位の社会で、その願望の実現を阻まれている黒人男性たちは、訴えどころの無いその悔しさ、不条理さへの憤りを仲間内で分かち合っているのだ。だから彼らの連帯感は白人の多い環境で特に露わとなるのである。

What's New?に戻る

ホーム