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2000/05/15

ハーレムにHMV登場
しかし、そのターゲットは?

ハーレム再開発の象徴とも言えるシネマ・コンプレックス“ハーレムUSA”が、ハーレムのメイン・ストリート125丁目に完成しつつある。初夏の陽射しが眩しく反射する白とガラスのパネル張りの建物は、これまでのハーレムでは見かけることのなかったモダンなデザインだ。マジック・ジョンソンがオーナーの9スクリーンからなる映画館は、まだ準備中だけれど、通りに面したテナントは完成した店舗から順次オープンしている。若い人たちに人気のカジュアル・ブティック“オールド・ネイヴィー”、スポーツ用品店“モデル”、ディズニー・ストアに続いて、この週末に大型CDチェーン店HMVがグランド・オープンを迎えた。


1〜2階吹き抜けの店内は他のHMV店舗に比べると、やや手狭な感じだけれど、特筆すべきは、その商品構成。入り口付近には定番の新作CDコーナーがある。トニ・ブラクストン、ジョー、ミヤ、ピンク、バリー・ホワイト、故ビッグ・パン、サイプレス・ヒル、ダ・ブラット、コモン … オール・ブラック&ブラック・オンリーだ。そのまま奥に進むとフェイバリットと書かれたコーナーがあり、ボブ・マーリィが並んでいる。左手にはDJブースがあり、さらに進むと「ディスコ」「ドラムンベース」「ラップ」「R&B」「ゴスペル」「レゲエ」「カリビアン」…と、果てしなく“ブラック・ミュージック”が続く。そのまま「ラテン」「サルサ」と続き、このあたりから民族音楽のコーナーとなって、「アフリカ」「インド/パキスタン」「中近東/アラブ」…と地域ごとに細分化されたコーナーが「ヨーロピアン」まで続く。なんと、オール・マイノリティ・ミュージックである。もっともブラック・ミュージックは今やポピュラー・ミュージック・シーンの大きな部分を占めており、マイノリティ・ミュージックと呼ぶことは、もはや出来ないけれど。それにしても、いわゆる「ロック&ポップス」はどこに?


キャッシャー付近で売られている“Harlem U.S.A./HMV/125th St.”と書かれた、ややダサめのオリジナルTシャツ($14.99)をチェックしてから、エスカレーターで2階へ。左手はガラス壁で区切られた「ジャズ」と「ブルース」のコーナー。奥には「クラシック」のサイン。フロアのメイン部分は「DVD」と「ビデオ」が占めており、その向こうの壁際には「カセット」が並んでいる。よく見ると、DVD、ビデオとカセットの間に、ようやく「ロック&ポップス」の棚が…。


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このHMVはハーレムに初めて進出した大型CD店である。広くてきれいな店内、豊富な品揃え、試聴機などは確かに魅力的だが、ターゲットはいったい誰?


実はハーレムの住人の間では、新興ミドルクラス層と従来の貧困層との二極分化が進んでいる。最近増えてきたミドルクラス層はハーレムに住んではいるものの、買い物は勤め先のミッドタウンですることが多い。ハーレムでは彼らの消費欲を満たす高品質で洗練された商品を手に入れられないからだ。CDならどこで買っても同じなのだけれど、彼らには地元で買い物をする習慣がない。


またヒップホップのメイン購買層である10〜20代の若者は、地元の小さな個人商店やベンダー(露店)で5ドル前後の海賊版カセットを買っている。限られた小遣いしか持たない彼らを、CDを14〜16ドルの標準価格で売っている大型チェーン店が果たしてどこまで引き込めるのか。ハーレムHMVの課題は大きい。


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