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2000/05/10

バイレイシャル・キッズ
異人種間カップルから生まれた子供たち
“ハーフ”じゃなくて“ダブル”

異なる人種の両親から生まれた子供(バイレイシャル・チルドレン)のことを最近ではハーフ(半分)ではなく、ふたつの文化を持っているという肯定的な側面から“ダブル”と呼ぶようになってきた。筆者の周りにもアメリカ黒人−アメリカ白人のダブルはもちろん、アフリカ−ドイツ、ヒスパニック−フィリピン、インド−フィリピンなど、様々な組み合わせの親を持つダブルたちがいる。


しかしながら“ふたつの文化〜ダブル”とは言うものの、実は祖父母、曽祖父母がまた別の人種で、3〜4種の血が混じっている人もアメリカでは決して珍しくない。例えば黒人男性と白人女性のカップルの場合、男性の祖母がネイティブ・アメリカン(インディアン)だったり、女性の両親が共に白人とは言え、アイリッシュ系とイタリア系の組み合わせだったり。そうすると、このカップルから生まれた子供は黒人白人の混血であるけれど、厳密に言えばネイティブ−アイリッシュ−イタリアン−アフリカン−アメリカンとなるのである。


しかし何故“アフリカン−アメリカン”の部分が最後に来るのか? それはアメリカの社会では“例え一滴でも黒人の血が混じっていれば、それは黒人”だからだ。考えようによってはこれは、かなり理屈にあわない。アメリカでかつて黒人が奴隷として使われていた頃、ほとんどの黒人女性は白人奴隷主にレイプされ、奴隷財産としての子供を生ませられている。その黒人白人ハーフの子供たち同士がまた子供を作っていった末裔が現在のアフリカン−アメリカンである。従ってほとんど全てのアフリカン−アメリカンには白人の血が入っていると言ってよいだろう。それはアフリカン−アメリカンとアフリカ人の肌の色の濃さや顔立ちの違いを見れば一目瞭然である。そのアフリカン−アメリカンが白人との間に作った子供であれば、白人の血の方が濃いことになる。しかしながら先にも書いたように、その子は政府の人口統計に於てすら“黒人”なのである。



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インターレイシャル・キッズ(異人種間カップルから生まれた子供)の外見は実に様々だ。ここでは黒人と白人のダブルを例に取ってみる。


とある教会のコーディネーターとして全米を飛び回っているジョゼットは、彼女自身がかなり色の薄い黒人で、目の色は明るい茶色、髪は黒だが、普通の黒人のように縮れてなく、強いカーリー・ヘア。そのジョゼットがアイルランド人との間にもうけた男の子ジャスティン(9才)は、顔立ち、肌の色、髪と目の色など、どこを見ても白人にしか見えない。だがジャスティンは両親の離婚後、母親のジョゼットとふたりでハーレムに暮らしている。


イタリア系アメリカ人のトレイシーは白い肌に栗色の髪と目。アフリカン−アメリカンのロニーはチョコレート色の肌。このカップルから生まれたマーカス(3才)は、なんとラティーノに見える。ラティーノ(ヒスパニック)とは、そもそもカリブ海の島々を植民地化したスペイン人と黒人奴隷が混じって生まれたエスニック・グループである。つまり、この一家はカリブ海・西インド諸島の歴史のミニチュア版なのである。ちなみにフライト・アテンダントのトレイシーとアート・ディレクターのロニーは、息子の教育環境のことを考え、比較的質の良い公立学校の多いチェルシーに住んでいる。


ブロードウェイを目差すダンサーであり、今はハーレムで子供たちにダンスを教えているタラの両親はアフリカのスーダン人とドイツ人で、彼女はドイツで過ごした子供時代の一時期を除いてアメリカで暮らしている。タラは一目でゲルマン系の血を引いていることが分かるシャープな顔立ちと、母親譲りの褐色の肌に、ネグロ−ゲルマン折衷の黒いウェービー・ヘアの持ち主だが、不思議なことに、その組み合わせは時にインド系にも見える。そして彼女は公民権アクティビスト(黒人人権運動家)でもある。


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黒人−白人ダブルの子供たちは外見が様々な上に、複数の文化と複雑な環境を背負っている。従って国勢調査の人種欄で“黒人”にチェック・マークを付けたところで、そのアイデンティティは、とうてい一言で語れるものではない。ここ最近は、そういったインターレイシャルな子供たちの複雑な心境についての本が出版されることも多くなってきている。


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