2006/2/13
ハーレムの家賃高騰
ハーレムの未来や如何に?
ハーレム再開発に伴う家賃・不動産の高騰がいちじるしい今日この頃。ここ2〜3年、「ハーレムに住んでいる」といえば、それはビンボーではなく、リッチを意味するケースも出てきた。なんだか凄い現象だ。
少し前、ハーレムに店を持つ友人が、「1ベッドルームのアパートが空いてるけど、誰か入居したい人知ってる?」と電話をかけてきた。セントラルハーレムの個人所有の物件は、こんな風にコネで埋まっていくことが多い。聞けばメインストリート125丁目に近く、便利な場所だ。で、家賃は? 「1400ドル」……高過ぎる。
※このアパートは既に入居者が決りました。アパート斡旋のご相談には応じられませんので、悪しからずご了承ください
私が催行しているハーレムツアーのルートには、ヨーロッパ調のアンティークな建物が建ち並ぶエリアがある。まるで絵本から飛び出たような眺めで、ランドマーク(歴史的建造物)も含まれている。先日、その中の一軒を高級不動産カタログに発見した。200万ドルを超える値が付いていた。
「あれまぁ」と驚いていると、ハーレム再開発によるブラウンストーン(石造りの高級タウンハウス)の価格高騰に関する特集記事がニューヨークタイムズにあった。ハーレムの不動産関連の報道を最近は頻繁に見掛ける。バブルが起こっている証拠だ。
ブラウンストーン
1970〜80年代にニューヨークは荒廃を極めた。ベトナム戦争の後遺症や、クラックと呼ばれる安物粗悪ドラッグの流行などが原因だ。中でもハーレムやサウスブロンクス、ブルックリンの黒人地区ベッドスタイなどは徹底的に荒れ果て、本来は美しい建物だったブラウンストーンも住人がいなくなり、多くが廃虚となった。
廃虚となったブラウンストーン
現在、それを買い取り、かなりの金額をかけて改装し、自分が住んだり、貸し出したり、または転売するリッチ層が出てきている。その多くが白人。彼らがハーレムの不動産価格を釣り上げている。
リッチ層が多く流入すると、周辺に質の良い食品を売るスーパーマーケットや、おしゃれなカフェが出来たり、反対にドラッグディーラーは商売上がったりで姿を消すので、住環境が良くなる。だから私は、基本的には再開発賛成派。
ただ、最近はそれが行き過ぎになっている気がする。家賃上がり過ぎ。人種が混ざるのは良いけれど、リッチしか住めない街になっては困る。
もっともハーレムは広くて、すべてのエリアが一気に再開発されているわけではないし、そもそもゲットー、中流地区、リッチ地区がジグソーパズルのように入り組んでいる。(昔から黒人にもいろいろな所得層が存在しているのだ。) だからリッチ地区に家を買っても、駅まではゲットーを横断しなくてはならないこともある。
ニューヨークタイムズの記事で取材されていた、ハーレムの物件を買おうとしていた人物は、「ハーレムは私には合わないから買うのを止める」と言っていた。理由は「ハーレムはエッジー edgy 過ぎるから」 エッジーとは「先端的」「トゲトゲしい」の意。
この人、うまい言葉を選んだなぁ。ゲットーとか、スラムとか言うとカドが立つからエッジー。そういえば数年前、私と夫がハーレムでアパート探しをしていた時、不動産屋が言った。
「良い物件があるけど、ファンキーなエリアです」
ファンキーもまた、ゲットーの言い換えだ。
いずれにしても、ちょっとやそっと再開発が進んだところで、ハーレムのファンキーさは無くなりはしないだろう。ゲットーは当分はゲットーのままだろう。
けれど、少しずつ住人の収入が上がって「低所得層 poor」が「中の下流 lower middle class」になって福祉に頼る人が減り、それがやがて「中流 middle class」になって、その中から「中の上流 upper middle class」になる人も出てきて……。こんな風にゆるやかで自然な変化が起これば、街もおのずときれいになっていくし、治安も良くなる。
これが理想的なパターンなのだけれど、それには社会構造そのものを変えていく必要があって、そう簡単にはいかないだろう。この話はいずれまた。
……さてさて、ハーレムの未来や如何に。
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文・写真:堂本かおる