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2006/1/3




ハーレムのニューイヤーズ・デイ




2006年1月1日 午後4時
ハーレム125丁目
曇り空
気温は高目

 思ったより多くの人出で賑わっている。とはいえ、個人商店のほとんどは閉まっている。全国チェーン店も閉まっている。開いているのは、ストリートファッションの店。ハーレム、ブロンクス、ブルックリンのマイノリティ地区にチェーン展開をしている店だ。暖かいニューイヤーズ・デイを、若者たちがウィンドーショッピングで楽しんでいる。

 本やTシャツを売る露店の数も、ふだんに比べると格段に少ない。たくさんあるブレイズサロンは全て閉まっている。露店商とブレイダーは西アフリカからの移民たち。彼らもニューイヤーズ・イブはパーティで大いに盛り上がったのだ。

 なのに、一軒のアフリカ生地屋は開いていた。オーナーが生真面目な働き者なのだ。店を手伝わされている13歳の娘は、パーティで徹夜だったと言って、商品にもたれて居眠りをしていた。

 クリスマス前はあれほど売り込み合戦の激しかったブートレグ屋も姿がない。ふと見ると、若い警官の2人組がパトロールしている。だからブートレグ屋は皆、逃げてしまったのだ。

 レノックス・アベニューまで行くと、ひとりだけ、歩道にビニールシートとスーツケースを広げてブートレグを売っている男がいた。通りすがりの中年男性が、周囲の通行人に笑いながら声を掛けた。
「買うなら急げよ、ポリスがすぐそこにいるぜ」

 ゆったり、のん気な、ハーレムのニューイヤーズ・デイ。


2006年1月1日 午前2時20分

 新年が明けて間も無い時刻。ハーレム124丁目&レノックス・アベニューにある違法な賭博場で撃ち合いがあった。金のことで揉めた男性2人が撃ち合い、一人は負傷、ローランド・ギブソン(34歳、ブロンクス在住)は死亡。翌日、ギブソン自身が他の殺人事件の容疑者であったことが判明した。

 2005年、ニューヨーク市全体の殺人事件の犠牲者数は540人。1963年以来の最少記録だ。ニューヨークは1960年代半ばから1980年代にかけて荒廃が進み、1990年には年間犠牲者数2245人という記録を作った。その後、治安は劇的に良くなり、犠牲者数も大幅な減少を続けている。

 先日のニューヨークタイムズに、2005年の殺人事件の統計が掲載されていた。それによると……

■62%が銃、24%がナイフによる

■理由の1位はドラッグ。以下、家庭内暴力、報復、恋愛のもつれ、
強盗、金またはギャンブル、ギャング活動、ガンの付け合い、性的
暴行の順

■加害者、犠牲者ともに18〜40歳の男性が多数

■加害者、犠牲者ともに60%が黒人、30%がラティーノ、白人は
10%以下、アジア系は5%以下

■加害者の97%、被害者の半数以上に逮捕歴がある

■60%が知り合い同士による

■80%が夕方4時から翌朝8時にかけて起こっている

■40%がブルックリン区で、23%がブロンクス区で、18%がクイー
ンズ区で起こっている。ハーレムを含むマンハッタン区は16%

 これらの統計数値を見て、単純に「黒人地区は危険」と考えるのは早計だ。事件の多くは確かに“ブラック・オン・ブラック”(黒人同士の事件)だが、当事者たちは何らかの違法行為に関わっている若者または中年の黒人男性で、事件の多くが日没後から夜明けにかけて起こっている。

 黒人地区に住む多くのまともな人々は、まともな時間に働き、まともな時間に表を歩く。彼らは犯罪には加担していないし、周囲に質の悪い人間がいても、付き合い方を心得ている。だから、殺人事件のターゲットになることはない。

 ただし、夜に自宅の窓から表を眺めているだけで流れ弾に当るなど、巻き添えになってしまうケースは実際に起こっている。これがゲットーに住むことの、大きなリスクのひとつだ。ゆえに「黒人地区は危険」という言い方も、当らずといえども遠からずなのかもしれない。

 なお、ブルックリン区、ブロンクス区、クイーンズ区での事件数が多いのは、それぞれの区に面積、人口ともにハーレムをはるかに上回る広大な黒人地区、またはラティーノ地区があるからだ。

 ゆえに、区レベルで治安を語ることに意味はない。マンハッタン区にハーレムやロウアーイーストサイドといった低所得者地区と、アッパーイーストサイドのような高所得者地区が混在しているように、他区にもさまざまに異なるエリアがあり、犯罪発生件数はエリアによって驚くほど違う。

 とにかく、多くの殺人事件の元凶はマリファナも含むドラッグであり、ドラッグを売る男たちは銃を持っている。ゲットーからドラッグが無くなれば銃も減り、そうすれば殺人も減少するだろう。

 ドラッグと銃を無くすには法規制も必要だが、若者たちが犯罪行為に走らずに就職できる環境を作ることこそが先決なのだ。

 話が逸れた。何はともあれ、easy going(のん気)とharsh(荒んだ)、ふたつの顔を持つハーレムの2006年に幸いあれ!







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文:堂本かおる