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2005/12/22




ニューヨーク地下鉄スト〜組合員は「サグ』
労組長 vs. 市長




 ストのおかげで、夕刻のハーレムには前代未聞の数のイエローキャブが走っている。ミッドタウンのオフィス街や、ウォールストリートも含むダウンタウンで働いているハーレマイト(ハーレムの住人)がイエローキャブで帰宅しているのだ。




12/22 デイリーニュース
TWU交通労組長(左)
NY市長(右)


12/22 ニューヨークポスト
TWU交通労組長
新聞発行時点では逮捕されておらず
写真は合成



 労使交渉はますます混迷を極めている。とうとう人種問題も顔を出してしまった。ブル−ムバーグ市長がストをしているTWU(交通労働者組合)を「thuggish」「selfish」「greedy」と言ったのだ。


thuggish(サギッシュ)=ヤクザのような
selfish=自分勝手な
greedy=欲深い


 いちばん問題になっているのは「thuggish」という言葉だ。「thug(サグ)=ヤクザ、チンピラ、暴漢」の形容詞だ。


 TWUには黒人とラティーノ職員が圧倒的に多い。これは地下鉄やバスに乗ってみれば一目瞭然。運転手、車掌の8割はマイノリティーではないだろうか。彼ら黒人職員と、一部の一般黒人市民がサグという言葉に反応した。「人種差別的な発言だ」と。


 サグという言葉は、本来は黒人ギャングだけを指すわけではない。しかし、ヒップホップ/ギャングスタラップの流行により、今では黒人ギャングをイメージする言葉になってしまったような気がする。故2パック・シャクールが腹部に入れていたタトゥーも「Thug Life」だった。


 ニューヨークの教員組合リーダーも強硬な姿勢を持った人物で、過去、労使交渉のたびに行政側と大きく揉めてきた。それについて、ある黒人男性が言った。「教員組合にサグという言葉は使われなかった」「なぜなら教員組合リーダーは白人(女性)だからだ」「市長がWTUをサグと呼んだのは、リーダーと組合員の大多数が黒人だからだ」


 ただし、サグが黒人への蔑称でない以上、それを人種差別だと非難しても議論にならない。だからTWUリーダーは「我々はヤクザではない」と反論したに留まった。







 明日、TWUリーダーのロジャー・トゥーサンは裁判所への出頭を命じられている。逮捕、拘留の可能性もある。警察、消防、交通のストは違法なのだ。パタキ州知事は「話し合いはストを中止してからだ」と高飛車な態度に出ている。ブル−ムバーグ市長は相変わらず激しくTWUを非難しながらも、リーダーの拘留は意味を成さず、高額の罰金のみを課すべきだと言っている。


 一般市民の多くは、まだTWUに理解を寄せているように見える。ストを、めったに体験できないイベントとして楽しんでいる人々すら見掛ける。けれど、莫大な経済的ダメージが出ているのも事実で、自営業者や時給労働者の中には、妥協をしないTWUに怒りあらわにする者も出てきた。


 今日、ハーレムの郵便局で行列に並んでいると、TWUメンバーの女性が、友人らしき郵便局員とストの話をしていた。話が終わって郵便局を出る際に、女性は行列に並んでいる私たちに向って「TWUをサポートしてね!」と明るく声を掛けた。私の後ろに並んでいた年配の男性は、「やれやれ……」とつぶやいた。


 このままストが続けば、クリスマスに家族親戚が集えない家も出てくる。


 クリスマスまで、あと3日。






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文:堂本かおる