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2005/11/16




黒人のサンクスギビングに
ピルグリムは存在しない




ジョナサン(仮名)は、南アフリカ生まれ、アメリカ育ちの大学生。毎日、ハーレムの学童保育所でコンピュータの先生もしている。


ジョナサンはマメだ。ハロウィーンの時期にはすべてのモニターにハロウィーンの絵柄の壁紙を貼った。ポインターまでオバケだったり、黒猫だったりした。(かわいいけど、使いにくいぞ。)


今はサンクスギビングの絵柄に変っている。ポインターも当然のようにカボチャだ。(カボチャはハロウィーンだけではなく、サンクスギビングでも多用されるイメージ)


壁紙は、サンクスギビングの象徴である畑の収穫物の写真だったり、ターキーの丸焼き写真だったり、そしてピルグリム(清教徒)とインディアンが握手しているイラストだったり。






サンクスギビング(感謝祭)の由来:1620年11月。メイフラワー号に乗って英国から北米大陸(現マサチューセッツ州)にやってきたピルグリムは、農作物を作る間もなく初めての冬に直面し、その半数が春を迎えることなく亡くなってしまった。同情した先住民インディアンがピルグリムに北米での耕作法を教えた。その年の収穫時に、ピルグリムは感謝の念を表すために、インディアンを食事に招いた。


ということで「黒い山高帽のピルグリムと、羽飾りのインディアンが仲良くしている図」がサンクスギビングの象徴となっている。


ところが黒人は、自分たちが登場しない「ピルグリムとインディアンの絵」を使わない。理由は「ピルグリムが北米にのこのこやって来たから、その後に黒人奴隷制が始まったんだ」「北米の主だったインディアンを、結局は白人が迫害して居留地に押し込めたじゃないか」だ。ただし、サンクスギビングは家族が集まる日として定着しているので、黒人も盛大に祝う。


けれど、それはあくまで「アメリカ黒人」のことであり、アフリカ人のジョナサンには、あまり関係ない。ジョナサンにとって、サンクスギビングの由来は「外国の歴史」なのだ。アメリカ人のように生まれた時から祝っているわけではなく、アメリカに移民として移り住んでから「へぇ、そんな祝日があるんだ」となったわけで。


だから一般的なイメージ通りに「黒い山高帽のピルグリムと、羽飾りのインディアンが仲良くしている図」を壁紙にした。ジョナサンが勤務しているハーレムの学童保育所では、おそらく始めてのことだろう。(ジョナサンは気付いてないと思うけど。)


これはこれでいいんじゃないかと思う。ハーレムにもアフリカンアメリカンだけではなく、ジョナサンのようにアフリカからの移民もいれば、ジャマイカやハイチからの移民もいるし、ラティーノも急増中だ。「アメリカ黒人史」、または「黒人から見たアメリカ史」だけを集中的に教えることを、そろそろ再考する時期に来ていると思う。



      
↑とはいえ、改めて見てみると、確かにかなり偽善っぽい? ↑







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文:堂本かおる