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2004/12/27




B.N.B.G./ザ・ワイアー
メリークリスマス from イラク


(1)B.N.B.G./ザ・ワイアー

 ケーブルTV局HBOのオリジナルドラマといえば、何といっても『セックス&ザ・シティ』が有名。けれど他にも優れたドラマがたくさんある。個人的にはあまり好みじゃないけれど『ザ・ソプラノズ』もいい出来だし、『となりのサインフェルド』のクリエイターが、外向的なウディ・アレンみたいなキャラクターを自作自演している『カーブ・ユア・エンスージアズム(*)』も、神経症的でかなり笑える。 *生真面目な熱意など持つな、とか、そんなニュアンスかな


 数ある秀作ドラマの中でも、うちの家庭でもっとも支持されているのが『ザ・ワイアー』だ。ボルティモアの黒人ドラッグディーラー組織の対立と、組織の撲滅をはかる警察の物語。登場人物がステレオタイプ化されておらず、しかも麻薬組織、警察、政治家の関係が微妙かつ複雑で、ついつい真剣に見てしまう。ところが先週、とうとう第3シーズン最終回を迎えてしまい、これからしばらくの間、見るべきドラマがなくなってしまって淋しい限りだ。


 さて本題。最終回の前の週に、主要キャラクターのひとりである麻薬組織トップが殺されて、視聴者をあっと驚かせた。射殺したのはフリーランスの凄腕殺し屋。漆黒の肌、顔には大きな傷跡があり、躊躇のカケラもなくターゲットを撃ちまくるが、黒人男性としては特に大柄ではない。それどころか細身な体形だとすら言えるだろう。


 その射殺シーンには中年の白人男性がいた。すっかり腰を抜かし、みっともなく脅える男性を見た殺し屋は「目撃者を排除」する気すら失せ、そのまま現場を立ち去った。


 殺人課の黒人刑事は目撃者が白人だと知ると、やれやれという風に頭を振りながら「B.N.B.G.だ」とつぶやく。他の刑事が白人男性に事情聴取すると、男性は「大柄な黒人……だったと思う。……大きな武器を持っていた……」と答えるのが精いっぱい。これが、刑事がつぶやいた「B.N.B.G. - Big Negro, Big Gun」だ。



 つまり、白人が何らかの事件現場で黒人を目撃した場合、黒人の特徴をつかむことがほとんど出来ず、ステレオタイプな刷り込みから「大きな黒人が大きな銃を持っていた」と思い込むことが多い、ということなのだ。


インテリヤクザなストリンガーベル
(Idris Elba)。殺されちゃって残念。
完璧なアメリカ黒人英語は努力のたま
もの。実はアフリカからの移民を両親
にロンドンで生まれ育っている。
B.N.B.G.ことオマール(Michael K.
Williams)。ブルックリン出身の
この役者さん、かつてはダンサーで
Mya, Ginuwine なんかと仕事してい
たそうな。 



(2)メリー・クリスマス from イラク

 多くのアメリカ人にとって1年でもっとも大切な祝日クリスマスを目前に控え、ニューヨークのローカルニュース局NY1では、イラク駐留の兵士の中からニューヨーク市出身者を選び、彼らから家族へのメッセージをオンエアした。


 CMタイムごとに兵士がひとりずつ画面に登場する。背後は戦場の駐屯地ならではの殺伐とした風景であったり、そこを他の兵士が行き交っていたり、または、いかにもアラブ風の瀟洒な白い建物が遠くに見えていたりする。


 「お母さん、お父さん、そして兄弟の●●、姉妹の●●、いいクリスマスを! イラクより、ブルックリン出身の●●(自分の名前)!」


 だいたいがこんな感じのメッセージだった。アメリカの複雑な家庭環境を反映しているものも多かった。「お母さん、お父さん」ではなく、「おばさん、おばあさん」であったり、「お母さん、お父さん、そして義理のお父さん(母親の再婚相手)」であったり。

 中には若い女性兵士の「私の息子●●へ!」というメッセージもあった。本人の年齢から推測すると、「息子」はまだ赤ちゃんか、せいぜい幼児だろう。


 すべてのメッセージを見たわけではないが、私が見た限りでは上記の女性も含めて全員が黒人、またはラティーノだった。白人兵士はいなかった。


 黒人はいまだに就職に関してきびしい状況にある。単に白人雇用主による差別があるだけではない。社会構造的に高等教育を受けることが困難な環境であったり、マイノリティー・コミュニティーを出たがらない(白人の多い地区では就職したがらない)土壌があったりする。ちなみにニューヨーク市の黒人男性の失業率は、現在48%だ。


 しかし軍隊は高卒であればまず入隊でき、いったん入隊すると安定した収入を得ることができる。一般に低学歴者が就ける仕事は、雇用主の都合で簡単にクビ切りされることが多く、数年先まで収入が安定することは大きな魅力となる。また、若い人なら将来、大学進学のための奨学金を得ることもできる。さらに、軍隊は一般企業に比べると人種産別が比較的少ないとも言われている。


 12月26日現在、イラク戦争に於ける連合軍側の被害者数は1500人近くまでに上っている。(米軍犠牲者の人種/エスニック別内訳:白人71% 黒人12% ラティーノ12% アジア系2% その他/未詳3% CNN調べ)


 イラク側の一般市民犠牲者数は約1万5千〜1万7千人の間だとされている。
 参照:
Iraq Body Count.net



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