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2000/03/05


ハーレムのバーにて #02
〜 賭博屋と焼きソバの交差する夜 〜

ハーレムのレノックス・アベニューに、バーのような、でもしかしチャイニーズ・レストランでもあるような不思議な店がある。Candlelight Lounge / Chinese Food と書かれた看板からは、その実態は判らないし、小さな窓からはクリスマスツリーに飾るような金銀のモールが見えている。この週末に、以前から気になっていたその店に、ついに入るチャンスがやってきた。


金曜の夕方、ハーレムYMCAの同僚がジャズ・バー(マルコムX 所縁の22Westという店)に誘ってくれたのだけれど、時間が早かったせいで、あいにくその店はまだ開店していなかった。そこで「仕方ない。この近所にある年寄りばっかりのバーでもいいよね」という同僚に連れて行かれたのが、件の謎の中華バーであった。


中に入ると、店内は一見普通のオールドファッションなバー。向かって左手は年配客ですでに埋まっている木製カウンターで、右手にはテーブルがいくつか並んでいる。ほとんどの客は50〜60代か、それ以上だろう。いわゆるNeighborhood bar(ご近所さんのバー)で、みんな普段着でそれぞれに金曜の夜を楽しんでいる。スピーカーからはバリー・ホワイトが流れたかと思えば、次はフランク・シナトラだったり。しかし、店内をさらに奥まで進むと、そこにはなんと中華料理屋のカウンターがあったのである。


きらきらと光るモールが天井からぶら下がっているバー・エリアでは、今にも電池が切れて動きが止まるんじゃないかと思わせる無表情なおばあちゃんバーメイドが「あんたたち、何にするの? ハイネケン? 1本2.25ドルね」などと言いながら飲み物を運んでいる。その背後を白い上っ張りを着た中国人コックが足早に通り過ぎる。


いったい、この店はなに? という私の問いに対して同僚は「単にバーのオーナー(黒人)と中華のオーナー(中国人)が共同で店を借りてるだけ」との返答をくれた。


そうこうしているうちに入り口のドアが勢いよく開き、黒のソフト帽に純白のロングコートをはおった50代と思しき男が入ってきた。余裕あり気な笑みが逆に不信感を募らせるタイプで、毛皮のコートにブロンドのかつらをつけた中年女を連れている。何故かいったんトイレに直行した男はバー・エリアに戻ってくると、左右に肩を揺する独特の足取りでカウンター客の間を泳ぐようにすいすいと歩きまわり、にこやかに談笑しては握手を繰り返している。聞けば男はナンバーズ賭博屋であるとのこと。安い掛金で遊べる違法ナンバーズは庶民のささやかな娯楽なのだ。


ちょうどその時、ジュークボックスから古いフォートップスの曲が流れ出した。もう、完璧に70年代ブラックスプロイテーション(※70年代に流行ったB級黒人アクション映画の総称)の世界である。そのファンキーとも、いなたいとも言える超B級映画まがいのシーンを、焼きソバを買い求めに来た親子連れがたんたんと横切っていく。あどけない顔をした子供は、まだ5才くらいか?


…ハーレムの夜は今日も更けてゆく。



Candlelight Lounge / Chinese Food @ Lenox Ave. & 134th St.

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