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2004/08/14




ベスト・オブ「日々の考察」



 こんにちは、みなさん。日本はお盆休みで、しかもオリンピックですね。

 さて、私のウエブサイトにはブラックカルチャー以外のことをテレテレと書き綴っている「日々の考察」なるコーナーがあるのですが、たまにはブラックカルチャーについても書いてしまっています。そこで今回は今年上半期に書いたブラックカルチャー・ネタ8本をまとめてお届けします。




■1/10 (土) NYのワースト校


 ニューヨークの公立学校は荒れ放題。最近は日本の学校も怖いらしいけれど、その怖さのレベルがちょっと違う(と思う。)なんといっても入り口に金属探知器があり、警備員がいるわけです。


 そんな状態にニューヨーク市長がとうとうキレて、「ワーストスクール12」を発表し、その学校にめったやたらな数の警官を配備させた。


 若い黒人警官が「生徒はお巡りのことなんか屁とも思ってないね」と言ってた。どういうことかと言うと、現行犯逮捕でない限り、警官は子どもに手出しできないのだ。「なにか悪いことをやっていそう」というだけで手荒なことをしようものなら、逆に児童虐待とか、人権無視で訴えられる。


 他にもいろいろ問題があって、今回の措置の善し悪しがいろいろと議論されているけれど、それは置いておくとして、その公立高校&中学校ワースト12に、なんとハーレムの学校がランクインしていないのである。驚いたでしょ。


 12校のうち、6校がブルックリンにある学校、4校がブロンクス、1校がクイーンズ、最後の1校はマンハッタンのロウアーイーストサイド。ワースト20くらいまで広げると、さすがにハーレムの学校も入ると思うけれど、日本で「ハーレム、めちゃくちゃ怖そう!」とか言われているのが間違った先入観だということの証明ですね。





■1/08 (木) 黒人の方(かた)はコワい


 あるウエブサイトの掲示板で面白い書き込みを見つけた。ニューヨークのブルックリンについての表記。


> 黒人の方ばかりで怖い雰囲気でした。


 むむむむ…。なんとも言えない微妙な日本語。


 そもそも、「方(かた)」とは、「人(ひと)」の丁寧な言い方だから、「黒人の方」はオカシな二重表現。


 それに、発言者がブルックリンを怖いと思ったのは、そこに居たのが黒人ばっかりだったからのようで、それならば「黒人の方」っていう丁寧な言い方はヘン。この人にとって黒人はネガティブな存在だったわけだから。「犯罪者の方ばかりで怖い雰囲気でした」とは言わないでしょう、この人も。


 要するに「黒人は怖い」けれど、「黒人を黒人というだけで差別してはイケない」というポリティカリー・コレクトを知っている。しかも「黒人」という言葉自体に差別的な響きがあると考えている人も多い。だからこんなヘンな表現になっちゃったんでしょうね。


 ちなみに、その人が怖いと言ったブルックリン。かなり広い区なのでいろんなエリアがあり、ブルックリンというだけで「怖い」というのは大間違い。けれど中には確かに「荒っぽい」場所もありますです。はい。





■2/08 (日) ヤムルカとスイカ


 ニューヨークのエリート高校同士のバスケの試合があった。一校はユダヤ系、他方はアフリカンーアメリカン。試合が盛り上がってきたときに、アフリカンーアメリカンの応援団が「ゲフィルトフィッシュ!」「ヤムルカ! ヤムルカ!」と叫び出し、これが大ごとになった。


 ゲフィルトフィッシュとはツミレみたいなユダヤ料理で、ヤムルカはユダヤ教の男性がかぶっている小さなお皿みたいな帽子。


 ユダヤ系の生徒の父親は「わたしたちが『スイカ』『カラードグリーン』などと言えば黒人は人種暴動を起こしたはずだ」と怒り心頭。ちなみにスイカ、カラードグリーンはアフリカンーアメリカンの好物。


 このお父さんはポイントをついている。「黒人だけが他人種、他エスニックを揶揄できるライセンスを持っている」問題ですね。


 黒人は奴隷制と人種差別でさんざんな思いをしてきたし、白人は加害者なので、白人は黒人をからかえない(少なくとも公の場では)、けれど黒人はなんでも言える、という状況がアメリカにはある。


 いずれにせよ、これはマイノリティ同士の話ではある。白人アメリカ人に向かって『コーク!』『ハンバーガー!』と叫んでも全然嫌みにならないし。あ、でもイタリア系に『スパゲッティ!』とか、アイルランド系に『ジャガイモ!』とかいうと、やっぱりケンカになるか。難しい国です、アメリカ。





■2/18 (水) 気の重くなる話だけど現実。


 先月、ブルックリンで19歳の黒人青年が白人警官に撃たれてなくなった。青年は自宅アパートの屋上にいただけで、犯罪者ではなかった。


 先週、クイーンズで中華料理の配達をしていた18歳の中国系青年が、16歳の黒人少年ふたりに強盗殺人された。


 最初の件では、黒人たちは「白人警官による虐待はもうたくさんだ」と言った。次の件では中国系移民たちが「声を上げることの少ない私たち移民だが、これは許せない」と言い、その裏には「いつも被害者ぶっている黒人だが、おまえたちは加害者でもある」というニュアンスがあった。


 中華料理の配達員はよく強盗に遭っている。殴られたり、刺されたり、撃たれたり、最悪のケースでは今回のように殺されたり。加害者はたいてい黒人かラティーノだ。





■4/02 (金) NYPDブルー


 ブロンクスのプロジェクト(低所得者用公営アパート)のロビーで、そこに住んでいた若い黒人男性が銃で自分を撃って自殺した。ロビーにはNYPD(ニューヨーク市警)が設置した防犯用の監視カメラがあって、自殺の模様も撮影されていた。


 後日、その自殺シーンがインターネットに流れた。


 NYPDのカメラなのだから、テープにアクセスできるのは警察勤務者だけのはず。





■5/02 (日) 晴天の日のハーレム


 
NY Streamというストリーミング映像サイトで、わたしのハーレム・ウォーキング・ツアーを取材していただいた。その日はお天気もよく、取材先の店の人たちもみんなよくしてくれて、楽しい仕事となった。


 ハーレムほど天気によって雰囲気が変わる街も少ないかもしれない。青空が広がると、空間の広く取られた街の造りが際立つ。歩いていて、のんびり、ゆったりとした気分に浸れるのだ。


 取材の前日にツアーがあり、男性客ふたりと、ハーレムいちばんの廃虚エリアを歩いていたときのこと。通りの右側にはガラスの無くなった真っ黒な窓枠が目立つガイコツみたいな廃虚が並ぶ。けれど左手側には公園があり、ベンチにはお天気が良いのでお年寄りが数人座っていた。街路樹は春になって緑の葉っぱをつけているし、そこから木漏れ日が差している。


 そんな複雑な風景を前にして、お客さんは「ハーレムって思っていたより良いところだなあ」と言った。


追記:読み直して気づいたけれど、ブルックリンやブロンクスでの事件についてたくさん書いている。「ハーレムの方が安全」を強調するために意図的に書いているわけでは決してない。日々の事件を拾うと必然的にこうなる。





■6/11 (金) 合掌〜レイ・チャールズ逝去


 レイ・チャールズが死んじゃいました。73歳だったそうで。


 「えー、そうかー、死んじゃったかー。歳だし、仕方ないけど、なーんか残念」。ネットで第一報を見たとき、そんな気持ちになった。


 生涯を通じてクールだったってうか、いい味出してたよねぇ。映画「ブルースブラザーズ」での、ゲットーの楽器屋の店主役なんかサイコーだった。盲目なのに、少年が万引きしようとしているのがちゃんとわかっててピストル撃つシーン。「ヒッーヒッヒッ」とか、肩をゆすって笑ってなかったか?


 天国でも肩ゆすりながら神さまに「ヒッーヒッヒッ」と笑いかけつつ、楽しくピアノ弾いて、歌いまくってください。合掌。





■6/12 (土) いろんなレイ・チャールズ


盲目のハンディを抱えながら米ソウルミュージック界の伝説的歌手
盲目の歌手
盲目の伝説的ソウル歌手
盲目の天才ミュージシャン
歌手のレイ・チャールズさん
米国の国民的ジャズ歌手
米国の歌手
ソウル音楽の大御所として知られる天才歌手
ソウルミュージックの草分け
ジャズ、ブルース界の偉人
ソウル・ミュージック歌手
ソウル歌手
伝説的歌手
カントリー、ブルース何でも来い
ソウル、R&Bから、ジャズやゴスペル、カントリーなど、幅広い音楽の才能


 以上はすべて「レイ・チャールズ死去」を伝える日本のネット記事からの抜粋。あらゆるジャンルをやった人なので、ライターさんもそれぞれの表記をしています。


 ライター仕事をやっていると、自分の全然知らない人物のことも書かなくてはならないことがある。そういう場合どうするかというと、海外メディアと特約している日本のメディアに属している場合は、海外から来たニュースを翻訳。特約してない場合も勝手に参考にさせてもらいます。だって知らない人のことは書きようがないから。


 「ほー、この人、盲目だったのか。じゃ『盲目のハンデを乗り越えて……』と。へー、いろんなジャンルを歌ってたんだ。じゃ、『ソウル、ジャズ、ブルース歌手』と」


 このライターはレイ・チャールズが歌だけじゃなく、ピアノを弾き、曲も作っていたことや、カントリーまで取り入れていたことは気にかけない。
それに「盲目のハンデを乗り越えて」なんて本当のことだけど、レイ・チャールズへの手向けの言葉にはふさわしくない。そんな苦労人みたいなこと、本人も言われたくないだろうな。


 逆にライター自身がたまたまレイ・チャールズのファンだった場合は、妙な思い入れが入っちゃいます。「『歌手であり、ピアノ奏者であり、ソウル、ジャズ、ブルースからカントリーまで実に幅広くアメリカのポピュラー音楽を…』…ありゃ、文字数が足りないよ。仕方ない『天才』としておこう。だって本当に凄いミュージシャンだったんだから」 これは「愛」ですね。ヒッ−ヒッヒッ……合掌。



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