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2004/06/25




マイケル・ムーア『華氏911』
+ White Chicks



 マイケル・ムーアの話題作「華氏911」をようやく観ることができたのは、独立記念日の7月4日。アメリカの誕生を祝う日に観る映画としては、まぁ、しゃれてるかな。実は前日の3日は義母と出掛け、彼女の希望で「ホワイト・チックス」なるコメディ映画を観るはめに。黒人のおばあさんはマイケル・ムーアなどに興味はないのだ。


 「ホワイト・チックス(=白人娘たち)」は、あの「スケアリー・ムービー」シリーズをヒットさせたウェイアンズ兄弟の作品。お兄ちゃんキーナン・アイボリー・ウェイアンズが監督で、弟ショーン&マーロン・ウェイアンズが主演。マヌケなFBI捜査官役のふたり(言うまでもまく黒人ね)が、ワケあってヒルトン・シスターズのような白人の女の子に化けるというストーリー。


 特製の白いラバーマスクを被り、身体中に白いパウダーを吹きつけ、黒人男性がブロンドガールに変身するさまは、特殊メイクさん、一応がんばったと言える。でも、ゴムマスク被ってることが分かりすぎで超チープ。もう少しナチュラルなマスクを作らんとね。そういえば昔、エディ・マーフィーがやったことがある。白人男性に化けて街を歩くというコント・シリーズ。


 それはさておき、監督キーナンのやりたかったことは、リッチな白人女性の軽率カルチャーを、黒人男性に再現させることで笑い飛ばそうということだったのか? それともホワイトギャル・カルチャーも、ブラックメイル(黒人男性)カルチャーも同等にマヌケだという自虐ギャグ? 途中、寝てしまったので分析することは出来ませんが(しなくていいか)、でも、笑えるシーンも確かにたくさんあった。友人のよしこちゃんが言ったとおり、何も考えたくないときにはお勧めの作品かも。



 本題に戻ってマイケル・ムーア「華氏911」。 まずは観るべき作品だと言うべきか。ただし大筋となる部分は、すでに知っていることのおさらい。
(以下、まっさらな状態で観たい人は読まないでください)


 2000年にアル・ゴアが、得票総数ではブッシュに勝っていながら、選挙人制度という摩訶不思議なシステムのために大統領になりそこねた瞬間から、今の奇妙な世界が始まったこと、ブッシュ&その周辺の人間とサウジの大富豪や石油ビジネスとの関わり、イラクの戦場にいる若いアメリカ兵士たちの心情、家族を亡くした一般イラク人の慟哭(どうこく)……などなどを詳細なディテールと、強烈な映像によってがーんと再認識させてくれる。


 これだけでも観る価値はあるでしょう。


 ただし、すべてをそっくりそのまま真に受けてはいけないと思うし、この作品には盛り込まれていない要素もある。いくらドキュメンタリー作品とはいえ、製作者の主観は入り込む。とくにマイケル・ムーアは誰もが知るアンチ・ブッシュ、アンチ・ウォーの人。そこに対立する二者が存在する場合、一方の視線だけに捕らわれすぎるのは危険かも。


 たとえば「この戦争はすべて石油のため」という部分。それは知っている。でも、なぜ石油が絡むとこんな大事になるのだろう。それは石油がビッグビジネスで巨額のお金が動くから。じゃ、なぜ石油はそんなにお金になるの? 一般の人々が贅沢を欲しがるからです。


 一般的にアメリカ人が資源をどれほど使いまくっているか。これはアメリカに来て実際に目にするまでは到底、理解できない。マクドナルドでのランチですら「そんなにたくさん、どうするの?」というほど大量のペーパーナプキンを使う。コーヒーを1杯頼めば、砂糖の小袋と小さなカップに入ったミルクが5ヶずつ付いてくる。(実際に5杯入れる人間がいるのである。だから店側は『もっとくれ』と言われる面倒を省くために、最初からすべての客に大量の砂糖とミルクを出す。ちなみに使われなかった砂糖とミルクはゴミ箱行き)


 アメリカ人はすべてのモノが使い切れないほど潤沢にある生活を当たり前だと思っている。ペーパーナプキンも砂糖もミルクも石油で出来ているわけでは当然ない。けれど、大量のモノを作り、運び、消費し、捨てるためには、その背後に大量の石油が必要となる。つまり一般人が自分たちの浪費振りを反省し、つましい生活を心がけ、実践しない限り、石油の利権に絡む不正は起こり続ける。ブッシュ一族の石油ビジネスを支えているのは、実は、必要以上のモノに囲まれていないと生活できないアメリカ一般市民なのだ。


 しかしマイケル・ムーアはそのことを作品中では指摘しない。彼はエコロジーの人なので、そんなことは分かっているはずなのだけれど。もしかしたら、一般市民を非難して怒らせたら映画を見に来てくれないことを恐れた? それともアメリカの大量消費僻を直すことは不可能と自覚している?



 わたしにとって最もショッキングだったのは、アメリカ軍の新兵リクルートの場面。颯爽と軍服を着込んだ白人兵士が、田舎町の貧しい黒人少年たちを言葉巧みに言いくるめて入隊を促す。(軍隊に黒人やラティーノが多い理由は以前、ウエブに書いたのでここでは省く。)


 そこでうまうまとリクルートされた若者たちの中には、もちろん軍隊生活が性に合い、成功を収める者もいるだろう。その一方、戦死し、二度と戻らなくなる者、負傷し、障害を抱えて帰ってくる者も出てくる。きちんとした教育を受けることができないままに学校を終え(アメリカの低所得地域に於ける公立教育のレベルの低さよ!)ストリートにたむろしている若者たちに、今回の戦争の意味、いや、今回に限らず、戦場に行くということ=人を殺し、自分も殺される可能性がある状況下で何ヶ月も暮すということを、本当に理解させたうえで入隊させているのだろうか。


米軍を含め、連合軍側の戦死者983名(7月5日付)
イラク側の犠牲者数は算出不可能


追記:タイムズスクエアのシネコンへ、独りでこの映画を観にきていた君(推定年令19歳、黒人、男性、XXXLの白いTシャツ+バギージーンズ、コーンロウをほどいてとりあえずのポニーテイル)、友だちは誰も観たがらなかったのであろうこの映画を、君はなぜわざわざ独りで観にきたのだろう。


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