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2003/11/12




ニューヨーク街頭ロケの風景


その1)アリシア・アキーズ


 3週間ほど前だったか、近所にあるソウルフード・ダイナーで夕食を取ろうと思ったら、何かのロケをやっていた。店の前で新聞売りをしている男性に「なんのロケ?」と聞いたら、「アリシア・キーズのビデオだよ」とのこと。よく見たら、いつもの新聞売りではなかった。きっと新聞売り役の役者だったんだろうな。しばらく後にもう一度、店の前を通ったら、ちょうどブルックリン出身の文系ラッパー兼俳優のモス・デフが撮影中だった。友情出演か。


 アリシア・キーズは1981年にハーレムで生まれている。父親がアフリカンーアメリカン、母親がイタリア系アメリカンで、つまり黒人と白人のミックス。間もなく両親は離婚し、母親はアリシアを連れて、同じマンハッタンのミッドタウン西側にあるヘルズ・キッチンというエリアに移り、そこでアリシアを育てている。当時のヘルズ・キッチンはまだアイリッシュ系の多い地区で、かなり荒っぽいところだったようだ。


 ティーンエイジャーになったアリシアは、ハーレム124丁目にある“ポリス・アスレティック・リーグ”という、学童保育所のような団体に属し、そこで本格的に歌い始めている。こういったバックグラウンドを持つアリシアは「私はふたつのH(Harlem, Hell's Kitchen)で育った」と言っている。


 2001年のデビューアルバム「ソングス・イン・Aマイナー」は大ヒットし、本格派R&Bシンガーの誕生と絶賛された。それから2年経ち、12月にセカンドアルバム「A Diary of Alicia Keys」を出すのだけれど、そこからのシングル第一弾「You Don't Know My Name」のビデオのロケを、アリシアは自分が生まれた街ハーレムで行ったのだ。


以下のサイトでアリシア・キーズの新曲が聴けます。
http://www.aliciakeys.net/



※訂正:メルマガで「曲間に『135th St. and Lenoxのウエイトレス』というセリフがある」と書きましたが、以下が正しい歌詞です。
this is the waitress from the coffee house on 39th and Innis







その2)スパイク・リー


 そして昨日、イーストヴィレッジにある、とある銀行に入ろうとしたら、またしてもロケ。現金の引き出しではなく、チェック(小切手)の入金をしたかったので、街角ATMではダメなのだ。ニューヨークに来たばかりの頃は街頭ロケを見かけるたびになんだかトクをした気分になっていたけれど、実際暮らし始めててみると、ロケの多さは結構迷惑だ。


 でも、よく見るとスタッフには黒人が多い。さらによく見ると、彼らが被っているオリーブグリーンのニットキャップに「40エーカーズ&ア・ミュール・フィルムワークス」のロゴがある。スパイク・リーのプロダクションだ!


 これは確かめるしかないだろう。銀行の前で固まって立っていた4人のスタッフに、「これ、スパイク・リー絡み?」と訊くと、ちょっと驚いたような顔つきでこちらを見てから、「新作の『She Hates Me(彼女はボクが嫌い)』の撮影だよ」「同じ銀行の支店は8番街に行けばあるよ」「君、名前は?」と、口々に答えてくれた。アジア系の人間が40エーカーズ&ア・ミュールのロゴを見分けたことに感心したらしい。名前を聞いたのもヘンな下心からではなく、最後に「(不便を我慢してくれて)サンキュー、●●」と、名前入りで挨拶するためだった。なんでもマメに覚えておくものだ。


 帰宅してからちょっと調べてみると、「She Hates Me」は、ウディ・ハレルソンとロザリオ・ドーソン主演のラブコメ。主役ハレルソンの昔の恋人(ニア・ロング)はレズビアンとなってしまい、その母親(ウーピー・ゴールドバーグ)も交えて、いろいろと悶着が起こるというストーリーらしい。


 ここしばらく、スパイク・リーの作品は興業成績が芳しくない。以下は劇場公開作品のリスト(ドキュメンタリー、オムニバス、テレビ作品は除く)だけれど、最後のビッグヒットは1992年の「マルコムX」だ。良い作品が必ずしもヒットするわけではないものの、11年間ヒットがないのは、やはりつらいところ。今回の「She Hates Me」もアメリカ国内では出資者が見つからず、フランス出資となっているらしい。


スパイク・リー作品リスト(興業収入額)

2002 25時間 (1308万ドル)
2000 バンブーズルド (219万ドル)
1999 サマー・オブ・サム (1929万ドル)
1998 ラスト・ゲーム (2157万ドル)
1996 ゲット・オン・ザ・バス (569万ドル)
1996 ガール6 (488万ドル)
1995 クロッカーズ (1300万ドル)
1994 クルックリン (1302万ドル)
1992 マルコムX (4817万ドル)
1991 ジャングル・フィーバー (3174万ドル)
1990 モ’・ベター・ブルース (1615万ドル)
1989 ドゥ・ザ・ライト・シング (2600万ドル)
1988 スクール・デイズ (1455万ドル)
1986 シーズ・ガッタ・ハヴ・イット (714万ドル)
1983 ジョーズ・バーバーショップ (----)


 スパイク・リーのスパイク・リーたる所以は、シリアスなメッセージを、ポップでシャープな映像とサウンドで綴ること。ポップさが身上である以上、どんなテーマの作品を撮ってもヒットの可能性はあるはずなのだけれど、いかんせん、観客側がスパイク・リーには「黒人問題」を求めてしまう。そのことにスパイク・リーは辟易しているようだ。


 昨年、スパイク・リーが妻のターニャと共著で出版した絵本「Please, Baby, Please」のサイン会に行った際、「白人が主役の『サマー・オブ・サム』が一部の黒人ファンから不評だったにもかかわらず、再度、白人が主役の『25時間』を作ったのはなぜか」と聞いてみた。スパイク・リーは「その質問にはうんざりだよ」といった顔つきで、「ストーリーが優れているから。ただ、それだけだよ」と言った。


 さて、新作の「She Hates Me」、脇を固めているのはラティーノと黒人女優だけれど、主役はまたしても白人のウディ・ハレルソン。良い作品に仕上がれば、白人、黒人、ラティーノの全てを引き付けてヒットさせることが出来るキャストとストーリーだ。久々にスパイク・リーのポップ・センス全開の作品を楽しみたいと、切に、切に願う。


スパイク・リー作品リスト
http://movie.goo.ne.jp/cast/24832/



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