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2003/04/05



移民兵士/反戦のリスク
イラク攻撃

 ※今回の記事は<日々の考察>にアップ済みのものを編集したものです



■移民の兵士のお話


 米軍の中にはガイジンの兵隊さんがいる。全兵士のうち約3万人は、なんとアメリカ国籍を持たない移民なのだという。以下の6人はその3万人に属し、そして今回のイラク戦争ですでに戦死してしまった若者たち。


ホセ・グテイエレス(22歳)ガテマラ国籍
ホセ・アンジェル・ガリベイ(21歳)メキシコ国籍
フランシスコ・マルティネス・フローレス(21歳)メキシコ国籍
ヘスース・スアレス・デル・ソラ(20歳)メキシコ国籍
ディエゴ・リンコン(19歳)コロンビア国籍
ジョセフ・メヌーサ(33歳)フィリピン国籍


合法移民には以下の3種がある
1)就労ビザなど、なんらかの合法滞在ビザ保持者(国籍は元のまま)
2)永住権(通称グリーンカード)保持者(国籍は元のまま)
3)市民権保持者(アメリカ国籍となる)


 通常は(1)→(2)→(3)と進むのにそれぞれ数年ずつかかり、特に市民権取得には10年以上かかるケースもある。軍に永住権保持者が入隊した場合、これまでは3年勤めれば市民権の申請ができた。(逆にいえば、3年勤め上げるまでは申請もできなかった。さらに申請から取得までに何年かかるかは移民局の審査次第で、それこそ神のみぞ知る)


 ちなみに、移民兵たちは外国人なので諜報部門やグリーンベレーなどの精鋭部隊には配属されないし、指揮官にもなれない。軍に勤めること自体6年しかできないので、そもそも出世のしようもない。つまり、いったん戦争が始まれば外国人でありながら前線に送られ、アメリカのために闘い、そして戦死も有り得る。けれど入隊3年後に市民権申請をし、残りの3年以内に取得できなかった場合には除隊するしかない。これではほとんど<使い捨て>ではないか。


 9.11テロ事件を経て昨年7月、ブッシュ大統領は、入隊すればすぐに申請ができるように新しい法律を発令した。その結果、既に軍にいる移民兵たちがこぞって申請書を出し、現在、審査はかなり滞っている模様。そんな中、上記の6人は市民権を手に入れないままに戦死してしまった。6人のうちの2人には市民権が与えられることがすでに決まった。中には申請手続きを済ませていなかったために、市民権取得ができるかどうか分からない者もいるという。


 命をかけても、まだ取得できない市民権。その市民権をエサに移民兵を募るアメリカ。




■ 移民のお話


 移民にはアメリカでの労働許可を持っている合法移民と、観光名義などで入国してこっそり働いている不法移民(通称イリーガル)がいる。


 アメリカの全人口は2.8億人で、イリーガルは推定500万人。これは10年に一度の国勢調査に基づいている(と思う)けれど、アメリカの国勢調査はそれほど正確ではない。国勢調査票は郵便で送られてくるのだけれど日本のような住民票がないので、宛名がなくて住所のみ。つまり<この住所に住んでいる人が答えてください>というわけ。面倒くさいから答えない人も多いと思うけど、なによりイリーガル移民が、移民局にアシがつくことを恐れて答えないし、英語が読めない人にいたっては論外。(実は国勢調査に答えた事によって移民局から捜査されることはない…らしい)


 だから全人口も怪しいと思うけれど、イリーガルの数に至っては識者による全くの<推測>だろう。けれど、たくさん居ることに変わりはない。その大量のイリーガルは、アメリカの3K市場を支えている。アメリカ人がやりたがらないキツい仕事をイリーガルが、最低賃金以下でやるのだ。


 もし明日、すべてのイリーガルを掴まえて国外退去させたとしたら、アメリカ経済は確実にマヒする。特にニューヨーク。まず、エスニック・レストランからはウエイター&ウエイトレスが消える。イタリアン・レストラン、中華レストラン、日本食レストラン、ギリシャ・レストランetc…みんな本国人を雇っていて、イリーガルも多い。そして、ほぼ全てのレストランの裏方(皿洗い、出前)は中南米系イリーガルだ。他にもあちこちのオフィスから清掃員が消える。お金持ちの家からはメイドやナニー(乳母)が消える。日雇いの建設現場労働者もいなくなる。チャイナタウンの人口の一体どれほどがイリーガルなんだろう? ラティーノもかなり多くがイリーガルだ。


 つまり「法律違反を承知で勝手にやってきた」という理由でイリーガルをイリーガルのまま放置しておいては、やはりだめなのだ。アメリカはイリーガルを安い労働力としてさんざん利用しているのだから、それなりの見返りを保証するべきだ。特に子供。親に連れられて移民してきてイリーガルな子供、またはイリーガルの親+アメリカ生まれで米国市民権を持つ子供、の親子に医療と教育の保証を。




■ 放っておきなさい。


 昨日、タイムズスクエア駅のNR線のホームにて。4人の制服警官(黒人男性2人、白人女性、白人男性)が、海賊盤CDのベンダー(露天商)から、200枚はあろうかというCDを没収していた。売っていたのは、南米系の若い女性ふたり。間違いなくイリーガル移民だ。


 海賊盤CDはカラーコピーの紙ぺら1枚のジャケットを付けて、普通は1枚5ドルで売られている。デジタル to デジタル・コピーだから音質はオリジナルと同じ。ニューヨーク中のどこででも売られている。道端や駅のホームに布を広げ、そこに、ばばばーと20〜30枚並べて売るのだ。警官が来れば当然一目散に逃げる。


 海賊盤CDを売ることはもちろん違法だし、音楽業界が何百万ドルもの損害うんぬん…は知っている。でも、移民なのだ。これでギリギリの生活をしている移民なのだ。元締めからCDを買って、売れたら一体1枚いくらが手元に残る仕組みなのだろう?


 なーんか、納得がいかないのである。こんな若い女性ふたりの海賊盤ベンダーなんかそっとしておけばいいのだ。警官が駅に4人も固まってパトロールしているのはテロ防止のためであって、こんなことのためではないのだ。ニューヨーク市はこの警護プロジェクト<アトラス作戦>に週500万ドルを払っているのだ、しつこく言うけれど。そして、それは私たちが払った税金から拠出されているのだ。これは、いたいけなイリーガル・ベンダーを掴まえるためでは決してない。


 1時間後、用事を済ませてまた同じホームに戻ってきた。そこには別の南米系女性が海賊盤CDを広げていたのであった。


(全米のCD売り上げチャートには、もちろんこの海賊盤は含まれていない。けれどゲットーの黒人やラティーノの若者は正規盤なんか買わない。海賊盤を含めればチャート順位が変わるかも)




■ 反戦することのリスク


 マドンナが新曲「アメリカン・ライフ」のビデオクリップの発表を取り止めた。理由は、内容が思いっきり過激な反戦イメージだったから。


その内容は、今ならニューヨーク・タイムズの記事(英語)で読めます。
(初めて訪れる人は登録が必要)
http://www.nytimes.com/2003/04/02/arts/music/02MADO.html


 さすがのマドンナもディキシー・チックスに何が起こったかを目の当たりにした今となっては、考えざるを得なかったのだろう。ビジネスとしてマズいというだけではない。ディキシー・チックスは何も言っていないけれど、命を脅かす脅迫状を受け取っていることも確かだと思う。


 過激な反戦メッセージをぶちあげたコロンビア大学の教授は命を狙うという脅迫状を受け取り、講義をキャンセルしているという。ベトナム戦争時代からリベラルで知られるコロンビア大学の教授ですら、こうなるのだ。脅したのはニューヨーカーか、それとも州外の人間かが気になる。とにかくマドンナも人の親。万が一、子供に危険が及んだらと、それも考えたことと思う。


 私はバックパックに<Anti-War>のバッジを付けている。ニューヨークというリベラルな土地柄、これまでそのことに対して特に危険を感じたことは無かった。実際、反戦メッセージを身に付けている人はよく見かける。けれど先週だったか、地下鉄の中で、こちらをじっと見つめている太った白人青年に気付いた時には、もし彼が過激な愛国主義者だとしたら…と、一瞬の恐怖を感じた。


 もっとも、彼がなぜこちらを見ていたのかは分からない。特に理由はなかったのかもしれないし、「へえ、アジア人も反戦なんだ」ぐらいのことを考えていたのかもしれない。または、実は彼自身も反戦で、同志だと思ってくれたのかもしれない。(視線が気持ち悪い人だったので、あんまり有り難くないけど)


 それはさておき、ディキシー・チックスの曲をボイコットしたラジオ局シンジケートの経営者は、ブッシュとつながりがあるとか。


 もうひとつ。ディキシー・チックスとマドンナがこれだけの大騒ぎになったのに、でもパブリック・エナミーの「Son of a Bush」は全然話題にならなかった。つまり、白人は黒人ラッパーが何を言おうと全く気に掛けていない、ということなのか? じゃ、アジア人の私が何を言っても影響力もない代わりに危険もないってこと? ラッキーなんだか、アンラッキーなんだか。


パブリック・エナミーの「Son of a Bush」ここで聴けます。
http://www.peace-not-war.org/Music/PublicEnemy/


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