NYBCT

2003/03/27



反戦デモに参加しない黒人
イラク攻撃



 3月22日にニューヨークで行われた反戦デモには20万人もの人が参加した。ブロードウェイを埋め尽くす人、人、人…。開始時刻の正午の少し前にスタート地点の42丁目に到着したものの、あまりの人出にマーチが動き出すまでには1時間もかかってしまったほど。


 参加者の顔ぶれを眺めてみると、極彩色の羽を髪に挿してフェイスペインティングを施した20歳くらいの女の子、養子連れのゲイ・グループ、いまだヒッピー道を貫き、なんとも言えない慈愛の表情を浮かべている(それが逆にちょっとコワい)60代の人たち…さまざまだ。中には少数ながらインド系と思しき人、日本人、南米インディオ(民族衣装を着ていた)などもいたけれど、これらのマイノリティはそもそも人口が極端に少ないから、デモへの参加者が少なくても納得できる。けれど、アメリカに於けるマイノリティの二大マジョリティである黒人とラティーノは、今回もやはり、あまり見かけなかった。


 ここに不思議な現象がある。黒人の多くが今回の戦争に反対しているものの、反戦運動にはほとんど参加しないのだ。3月26日にCNNが公表した世論調査の結果では、戦争肯定派は白人73%、黒人30%。ニューヨークタイムズ/CBSニュースが3月20〜24日に行った最新調査では、ブッシュ政権は戦費、戦争期間、戦死者の見積り数をそれぞれきちんと国民に説明しているか、にイエスと答えた黒人は、いずれもひとケタ。黒人は戦争反対であるとともに、強烈なアンチ・ブッシュ(ブッシュ不信)でもあるのだ。


 では、黒人はなぜ反戦運動に参加しないのだろう。それはニューヨークのローカル・ニュース局NY1の街頭インタビューでの、テロは怖いか?に対する黒人のおばあさんの淡々とした答えが示しているように思える。「起こるときには起こるのよ」。


 このおばあさんの答えの真意は、「テロリストのやることは防ぎようがないから仕方がない」ではない。意訳すれば、「アメリカという国に住む黒人である自分にとって、物事はいつも自分がコントロールできないところで起こる。それは自分に災難として降りかかってくるけれど、甘んじて受け、なんとかやり過ごすしかない」なのだ。「自分がコントロールできない」ものとは、この質問に限ってはテロリストのことだけれど、普通は白人のこと。今回の戦争にしても、「白人が始めたんだから何を言ってもだめ、自分たちの気が済むまでやるでしょうよ」と感じているように思える。こういった、諦めとも、それを通り越した一種の達観ともいえる心境を多くの黒人が持っている。だから黒人は下に挙げる理由で戦争には反対でも、反戦運動には参加しないのだ。


●黒人がイラク戦争に反対する理由


1)軍隊には黒人が多く、従って黒人兵の戦死者が多数でることが予測される(黒人の全米人口比は13%、軍隊に占める割合は20%)

2)黒人社会は教育・貧困・失業などの問題を抱えており、戦争をする費用があれば自分たちの問題解決に使いたい

3)圧政者フセインに虐げられ、なおかつアメリカ軍の爆撃を受けねばならないイラクの一般人に対する同情


 けれど、その数は少ないとはいえ、参加した黒人もいた。中でも目を引いたのが、黒人以外の女性と共に参加していた男性。白人女性やアジア系の女性とのカップルを何組も見かけた。中にはイラク人女性と共に参加した黒人男性もいた。その一方、黒人同士のカップルはほとんど見かけなかった。


 これはどういう意味を持つのだろう。非黒人と付き合う(結婚する)黒人男性とは、つまり黒人であることにプライドを持ちながらも、黒人社会だけに留まってはいたくない、もしくは外界に対する好奇心の強い人たちだ。白人社会におもねるという意味ではなくして、アメリカ社会のメインストリームに参入したいと願い、参入する能力とエネルギーを持っている人たち。


 具体的には黒人コミュニティに住んでいる場合でも、中央社会で働いて黒人以外との交流も持ち、そこで非黒人女性と知り合うか、ゲイの場合なら非黒人の同性と知り合い、付き合う。(なかには白人女性と付き合うことによって自分の“ランク”が上がると思っている者もいるけれど)


 彼らは<黒人として>上記1,2の理由で反戦し、<アメリカ人、もしくは人間として>3の理由で反戦する。そして、それを臆することなく意思表示する。「物事はいつも自分がコントロールできないところで起こるが、それを甘んじて受け、なんとかやり過ごすしかない」とは考えない。


 一方、他人種の男性と付き合う黒人女性も近年増えつつあるものの、まだ少ない。だからデモに参加した黒人女性は黒人男性よりも少なかった。黒人社会にこういった事情があるからこそ、デモにひとりで参加していた会社勤めふうの中年女性や、12〜14歳くらいの少女3人組には、ひときわフレキシブル(柔軟)で強い精神を感じた。



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