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2003/03/24



NAACPイメージ・アワード



 3月8日、ロスで第34回 NAACP(全米黒人向上協会)イメージ・アワードが開催された。


 黒人アワードには、ヒップホップ雑誌 SOURCE 主催の ソース・アワード、黒人テレビ局 BET主催の BET アワードがあるけれど、どちらもヒップホップ・アーティストが中心。女性誌 Essence 主催のエッセンス・アワードは、当然女性に焦点を当てている。対してこの NAACP イメージ・アワードには団体の趣旨どおり、黒人のイメージ向上に貢献のあった黒人セレブが幅広く登場する。音楽系アワードのような派手さはないものの内容は濃く、黒人社会の動向を反映している率が高いように思る。


 今年は、これまで極端に黒人選手の少なかったプロ・テニス界に風穴を開けたヴィーナス&セリーナ・ウィリアムス姉妹、現代ブラックムービーのパイオニアであるスパイク・リー監督、人権活動家でもある俳優ダニー・グローヴァーが特別賞を受賞した。


 ヴィーナス&セリーナの受賞に際しては、“デフ・ポエトリー・ジャム”から3人の女性詩人が登場し、ポエトリー・リーディング(詩の朗読)を行った。詩はふたりの強さと美しさを讃えたもので、最後は「誰の許可を得ることもなく、このまま美しくあれ」と締め括られた。「女性が羽ばたくのに男性や社会の許可はいらない」「黒人が自己主張をするのに奴隷制時代のような白人の許可はいらない」というふたつの意味を込めているのだろう。白いドレスに身を包んだヴィーナスは、朗読を聞きながら涙ぐんでいた。妹のセリーナよりも一足早くリリーホワイト(白人世界)なテニス界にデビューし、ひとりでがんばった時期があっただけに感慨深かったのかもしれない。3人の女性詩人が黒人・アジア系・ラティーノの取り合わせだったことも印象深かった。

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 スパイク・リーは言うまでもなく、現在のブラックムービー・シーンの土台を作り、今も“スパイク”の名前どおり、尖った論争的な作品でアメリカ社会を刺激し続けている映画監督。プレゼンターは、昨年のアカデミー賞で主演男優賞と女優賞をダブル受賞したデンゼル・ワシントンとハリー・ベリー。ふたりは共にスパイク・リーの作品に出演している。デンゼル・ワシントンは「マルコムX」「モ・ベター・ブルース」「ラスト・ゲーム」に主演。ハリー・ベリーは「ジャングル・フィーバー」でドラッグ中毒の女を演じ、「ガール6」にはカメオ出演している。


 スパイク・リーの作品リストを改めて見てみると、数え切れないほど多くの黒人俳優が無名時代に出演していることに驚かされる。今や“世界一クール”な男サミュエル・L・ジャクソンは初期作品の常連だったし、ローレンス・フィッシュバーン、ウェズリー・スナイプス、アンジェラ・バセットなども出ている。ブラックムービーのコアなファンならジャンカルロ・エスポジート、イザイア・ワシントン、オシー・デイヴィス、ジョーイ・リーもお馴染みだ。


 スパイク・リーの最新作「25th Hour」主演のエドワード・ノートンもスピーチに駆けつけた。黒人アワードという場で白人がステージに立つというのは相当なプレッシャーに違いない。けれどスピーチは知性と洞察力に富んだものだったし、特別賞受賞者へのスピーチを白人に託した NAACP にも驚かされた。

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 実は今回の NAACP イメージ・アワードには、ひとつの問題があった。昨年 CBS でオンエアされたテレビ映画「ローザ・パークス物語」と、その作品でローザ・パークスを演じたアンジェラ・バセットがアワードにノミネートされたのだけれど、アワード会場に招待された本物のローザ・パークスが招待を固辞したのだ。


 ローザ・パークスは1955年に白人にバスの座席を譲らなかったために逮捕された黒人女性。この事件がきっかけとなってアラバマ州で大々的なバス・ボイコットが起こり、その結果、バス車内の黒人差別ルールが撤廃された。以後、ローザ・パークスは黒人史に名を残す“偉人”として尊敬されている。


 そのローザ・パークスが、自分の伝記作品がノミネートされたにもかかわらず会場にやってこなかった理由は、やはり今回のアワードにノミネートされていた映画「バーバーショップ」だ。これは<暴力・ドラッグ・セックス>をテーマとすることが多かったこれまでの黒人コメディとは大きく異なり、市井の人々が集う床屋を舞台にしたフレッシュな作品。けれど劇中、床屋のひとりがローザ・パークスやキング牧師をジョークにするシーンがあったのだ。しかも、そのセリフを喋った床屋役のコメディアン、セドリック・ザ・エンターテイナーが、よりにもよって今回のアワードの司会役だったのだ!


 セドリック・ザ・エンターテイナーにとって、ローザ・パークスの招待固辞はかなりのショックだったことだろう。コメディアンとしてジョークのネタにはしても、黒人としては当然ローザ・パークスのことを尊敬しているはず。彼はショーの最後に短いスピーチの場をもらい、いつにない真顔でキング牧師の言葉を引用し、先達への尊敬を表した。この出来事は、差別撤廃を求めて実際に闘った世代と、その世代を尊敬しながらもジョークにしてしまえる若い世代とのあいだに大きなギャップを物語った。いずれにしても、今年の NAACP イメージ・アワードも見応えたっぷりの内容だった。



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