NYBCT

2003/03/16



ハーレムの春



 長く寒かった冬がとうとう終わって、ニューヨークも<春>と呼べる陽ざしの一日となった。ハーレムの街を歩いてみると、土曜の午後は誰も彼もが通りに出ていて、みんないつもよりも表情が柔らかい。


 ハーレムでもっとも荒んだゲットーと呼べる150丁目あたりの公園ですら、青い空と白い雲を背景にバスケットボールのフープにジャンプしている少年たちがたくさんいた。リトルリーグのチームも練習をしていた。フェンスの前のベンチにはおばあさんたちが座り、お喋りに余念がない。


 通りにはハーレム名物のアイスクリーム・ワゴンが今年初めて繰り出していた。中南米からやってきた小柄で勤勉なラティーノたちは、今年も秋までココナッツやマンゴ・フレイバーのアイスクリームを1ヶ50セントで売り続けるのだ。


 公衆電話に寄りかかって、テイクアウト用の発砲スチロールのトレイから中華料理を食べている若い男。わざわざ通りで食べなくてはならない理由など実はないのだけれど、家に中にこもっていたくはないのだ。別の公衆電話には、二匹の犬を連れた、やはり若い男。犬種もわからない巨大なグレーの老犬と、せわしなく動き回る小さな茶色いテリアの取り合わせが可笑しい。


 すれ違うおじいさんたちは、目が遭うたびに「やぁ、元気?」と声を掛けてくるか、ただ頷いてみせる。よちよち歩きの子供たちは、こんな日差しの中でも心配性の若い母親にまだダウンジャケットを着せられていて、頼りなげな足取りで母親に手を引かれながら歩いている。ベビーカーの中では赤ちゃんたちが、急にまぶしくなった陽ざしがなんだか迷惑そうで、目をしかめている。


 このまましばらくはこんな春の光景が続いて、そして、ハーレムには今年もまた、あの暑い夏がやってくるのだ。



What's New?に戻る
ハーレムに戻る

ホーム