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2002/12/20

女性に厳しい黒人社会
ホイットニーのインタビュー




 12月4日、ABCのニュース・ショー『プライム・タイム』でホイットニー・ヒューストンの独占インタビューがオンエアされた。人気キャスターのダイアン・ソイヤーがアトランタにあるホイットニーの邸宅を訪れ、ゴージャスなリビングルームで差し向かいのインタビューを行ったのだ。


 翌日発表された同番組の視聴者数は全米で2,130万人。アメリカではホイットニーは世代や性別を超えて万人から愛される、まさに国民的スターなのだ。加えてボビー・ブラウンと結婚してからの夫婦揃っての奇行(ドラッグ、コンサートのキャンセル、度重なる逮捕)に対する野次馬的好奇心も、この驚異的な数字の理由だろう。


 白いパンツスーツがよく似合っていたホイットニーだが、目のうつろさと、喋るのも苦しげなかすれ声にまず驚かされた。話している内容も、ドラッグをやっていることを認めた一方で、「クラックは安物よ!クラックなんてやるには私は稼ぎ過ぎてるわよ」などと、見ているこちらが目を伏せたくなるようなものだった。


 さらには、部屋の隅にいたボビー・ブラウンが途中からインタビューに加わり、こちらは異常に汗をかきながら、マリファナを「躁鬱病を抑えるため」に「毎日じゃなくて、一日おきに」使っていると告白。その合間にホイットニーの膝に手を置き、「これはおれのものだ」。


 このインタビューは、4年振りに出されたホイットニーの新作アルバム『ジャスト・ホイットニー』のプロモーションのために行われたと思われるが、この夫婦の異常振りを改めて見せることにより人々にショックを与えこそしたものの、ホイットニーのイメージ・アップにはとうていなり得なかった。それどころか、インタビュー時のふたりの様子は週末の『サタデーナイト・ライブ』などでさっそくギャグのネタにされてしまった。


 さて、ここからは後日談。「ホイットニーの凋落はボビー・ブラウンのせいだ。ホイットニーはボビーとはさっさと別れるべきだ」という意見に対し、私の友人である黒人女性ブレンダ(仮名)は言った。「あれはホイットニー自身のせいよ。いったいどれくらいの女性がドラッグ中毒の男と付き合ってると思う?それらの女性すべてがホイットニーみたいに男に振り回されているわけじゃないでしょ。しっかり生きている女性も多いじゃない」。


 この後、話題は変わり、ブレンダは息子の話を始めた。息子ジャマール(仮名)は20代後半で、昨年ガールフレンドとの間に子供ができた。しばらくは家族三人で暮らしていたものの、ガールフレンドとの関係がぎくしゃくし始め、彼女はとうとう子供を連れて実家に帰ってしまった。


 ブレンダは残念そうにため息をつきながら、こう言った。「でもね、息子はガールフレンドが出て行ってからのほうが幸せそうに見えるの。自分を取り戻す時間が必要なのね」。その息子ジャマールはなんとか仕事を見つけようとがんばってはいるものの、今のところ定職には就けずにいる。ということは、ガールフレンドと子供に仕送りもしていないだろう。母親がどんな状況でも自分の息子をかばうのは当然のことと思えるが、ジャマールは今や一児の父親だ。<自分を取り戻す時間が必要>などという言い訳が通じる立場ではない。


 しかし、黒人社会は男性に甘い。男たちが社会的責任を負わなくても、さほど責められることはない。(これは昔、黒人男性が家族を養うために仕事をしたくとも差別により就職が難しく、家族の長としての対面を保つことすら出来なかったことに原因があると言われている)だからこそ、ホイットニーもファンから愛されながらも、厳しい意見を突きつけられるのだ。
 「ボビー・ブラウンというどうしようもない男を選んだのは、ホイットニー、あなた自身よ。だから、しっかりしなさい」。



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